菜食主義者 (新しい韓国の文学 1)

制作 : 川口恵子 
  • cuon (2011年6月15日発売)
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本棚登録 : 1323
感想 : 107
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一読して、菜食になった彼女がやがて木になろうとするのは、加害を受けて来た彼女が加害と無関係なところへ行こう行こうとしてのことなのだろうと思った。
が、しばらくして二つの疑問が浮かんだ。
一つ目は、菜食になるというのは彼女が自分自身が加害することも辞めたくてなのだと思ったのだけど、彼女は周囲に頓着している様子がなく、自身の加害について関心がないのなら菜食も木になることも加害を避けることとは違うのでは? ということ。
二つ目は、菜食になることと木になること、「植物」だし、と雰囲気で繋がっているような気になって読んだのだけど、イコールではないな? 筋が違うのでは? ということだった。
一つ目については、ではなぜ菜食になったのかと考えると夢のせいで、あの夢は溜まってしまった命が見せると思ったから肉食を辞めた、でも本当は腹の中の顔だった、と書かれている。
腹の中の顔、というのは加害に抵抗する術のない彼女自身、特に蒙古斑が残っているということからも子ども時代の彼女なのかな、と私は思う(安直すぎる気もするし、他にも色々なものを含むと思うけど)。
蒙古斑、を頭に残したまま二つ目を考えて、第二部で義兄が木になるイメージを植え付けたからでは、と思い、ぞっとした。
初読の段階で、木になりたいというのはそれだけだと綺麗な願いのように感じてしまったのだけど、実際には彼女はその願いのせいで死にかけているわけで、彼女は自分の中から生まれた願いだと思っていても、本当は義兄に誘導されたものに私には見える。
義兄が蒙古斑にこだわっていたからには彼女が成人女性であっても小児性愛の側面があるわけで、大人が子どもに性的な誘導をすることで歪めてしまう加害を私は感じた。
そうすると、様々な加害を受けた果てに見つけた願いまでも加害によるものであってそのせいで死に向かう、と読めて何ともしんどいのだけど、そこまで加害を描き切ったことで非常に力のある作品になったのだと感じた。

(読書会で様々な意見を聞いて、色々再考していくつもりなのだけど、ひとまず会の前の私の感想)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年2月17日
読了日 : 2020年2月17日
本棚登録日 : 2020年1月3日

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