魔球 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (1991年6月4日発売)
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本棚登録 : 7017
感想 : 530
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アニキはいつも一人だった。
なんて悲しい言葉なんだろう。
それでも、最後の弟の日記に、少しだけ救われた気がします。

推理小説のネタバレ記事は気がすすまないけど、私の心の整理のために書きます。
以下ネタバレ。

選抜高校野球に出場した高校球児(野球部捕手の北岡)が殺された。
同じ頃、ある会社で爆弾事件が起き、社長の誘拐騒動が起きる。
警察はふたつの事件をそれぞれ捜査する。

しばらくすると第二の事件が起きる。
北岡とバッテリーを組んでいた天才投手と呼ばれている須田が死体で発見される。
須田は右腕を切り落とされ、右腕は見つからない…。

須田は母子家庭で、母、弟と暮らしていたが、本当の親子ではない。
須田は、現在の母の亡き夫の妹が産んだ子供だった。妹は未婚のまま須田を産み、4歳頃まで一人で育てていた。
その須田の本当の父親というのが、爆弾事件、誘拐騒動のあった会社の社長だった。
この会社の社長は、須田の実の母と結婚するつもりでいたが、仕事で世話になっている人から娘婿にと可愛がられ、須田の実の母とその子供を結果的に捨てることになった。
須田の実の母は、須田家に子供共々引き取られた後に自殺して死んでしまった。
須田は、そのまま須田家の長男として育てられた。
しかし、須田家の大黒柱である父親は職場の爆発事故で死亡。母子家庭として貧しい生活を送っている。
須田兄弟は、母を助けるために、兄は野球で、弟は勉強でお金を稼ぐことをきめる。

須田が魔球を練習していたことをキッカケに、警察は爆発事件があった会社の野球部に所属していた男に行きつく。
その男は、会社の事故が原因で足が不自由になり野球ができなくなっていた。その上、その事故の原因も会社に隠蔽された。
男は、会社に復讐するためにダイナマイトを持って会社に特攻しようと考えた。しかし、須田にそんなことはしなくていい、俺が爆弾をしかけてやる、と言われる。
しかし、須田は爆弾が爆発しないように細工をして仕掛けた。結果、爆発せずに大騒ぎになって終わっただけ。男の復讐心について、須田は、「自分のせいでだれかかわ死んだらどうしようって思ったなら、その程度ということ」と。
爆弾騒ぎの真相はこういうことだった。

殺人事件の真相はというと、北岡殺しの犯人は須田だった。
須田は「約束を破る人を許さない」という強い考えを持っている。
これは、須田の実の父親が「必ず迎えに来る」と言ったのに結局迎えに来ることはなかったこと、須田の実の母はこの父の言葉を信じ、須田を連れて毎週駅で終電まで待ち続けたという幼い頃の記憶が深く影響しているのだろう。
須田自身、プロ入りして育ての母を助けることを目標にしていたが、須田の体はプロ入りに耐えられないほどに故障していた。そして北岡は、須田の故障に気付いていた。
須田は北岡に強く口止めして、北岡も口外しないことを約束するが、北岡は須田の故障について監督の教師に相談しようとした。
須田は、北岡の大切なもの(愛犬)を殺すことで、約束を破ろうとした北岡への報復を果たそうとした。
しかし、愛犬を殺した時に北岡と須田がもみ合いになり、結果的に北岡も殺してしまった。

須田は、その後、実の父である会社社長に会い(これが誘拐事件の真相)、自分と母がいかにつらい思いをしたかをぶちまける。
そして、その社長に、育ての母への援助を約束させる。
その翌日、須田は自ら命を絶った。
須田は、弟に、自分が死んだら右腕を切り落として発見されないようにしろと指示を出していた。弟は、兄の指示に従った。
これが、ふたつの殺人事件の真相です。

須田は、自分の体が野球に耐えられないこと、チームメイトの北村を殺してしまったことに絶望しながらも、母と弟を助けるために、自分がいなくなった後のことまで考えて。
高校生の男の子に、ここまで背負わせるか…って、すごく悲しい気分になった。

うまく言えないけれど、現実の世界でも、若い天才アスリート達は同世代の若者とは比べられない様々なものを背負っていると思う。
そして、きっと凡人達には理解できない感情も持っている。
この物語に出てくる須田少年は、何度も「天才」と形容されている。
須田少年の考え方や、自ら死を選び弟に腕を切り落とさせたことについては、多くの読者には理解の範疇を超えているだろう。
須田少年が「天才」と何度も形容されていることは、その点に対する筆者の伏線なのかもしれない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 東野圭吾
感想投稿日 : 2019年2月3日
読了日 : 2019年2月2日
本棚登録日 : 2019年1月21日

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