忘れられた日本人 (ワイド版岩波文庫 160)

著者 :
  • 岩波書店 (1995年2月16日発売)
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5

高速道路でびゅんびゅん飛ばす脇をふと見やると
うっそうと茂る森。山。
たとえばこんなところでぽいっと降ろされたら
迷子になるどころか
生きて帰れる気がしない。

宮本常一の『忘れられた日本人』
日本全国を歩いて人々の生活を、その身を通して体験し、伝える地道な民俗学者。

対馬、伊奈での調査を終え、佐護へ行く宮本さんに
用事をすませた男たちが、馬に乗せて送ってやるという声を辞退して、じゃあ荷物だけとお願いしひとり山道を歩く。
道を歩くが、二股の細い方が本道だったりして、馬蹄のあとを探りさぐり、しかも木が覆いかぶさっていて見通しが悪い。
どこかでおおいと呼ぶ声で、ようやく男たちに合流したが、
よぉこんな道、簡単には進めんやろうなどと聞くと
声をたてるのだ
と言う。
歌を歌うのだ
同じ山の中にいるものなら、その声をきくとあれは誰だと分かる
相手も歌い
こちらも声をかけておく
それだけで相手がどの方向へ何をしに行きつつあるかくらいは分かる
行方不明になっても誰かが歌声をきいていれば
どの山中でどうなったかくらいは想像つく
と言う。

そんな
そんな心もとない方法で!
と思うがそれがはるかな大地で生きる方法なんやろうかな
いまよりずーっとずっと敏感な感覚で、この身ひとつで獣道をかき分けて来た山の景色をながめていると
忘れていた感覚がよみがえるような気がする。

その歌は追分のようで、
宮本さん曰くは、松前追分や江差追分のように抑揚ある洗練されたものではなく
もっと素朴な、馬方節のような追分であるらしい。

遊びもないから、とおくのほうまでよばいに行く
台所なんかに若い者が寝ているので納戸で寝てる親を起こさないよう、敷居に小便かけると、きしまない。
帯を巻いて転がし、その上を歩くと板の間も音がしない。
娘と男を髪とにおいで見分けて、今とちごうてずろおすなどもしておらんから、、、
なんてその先はおっと。

メシモライというて、5つ、6つくらいのみなしごで、漁船に乗せられて仕事もせんで遊んでればよかった

なんちゅうことを聞けば聞くほど、まるで異国の語りぐさ。
そんな時代を知っている人も、もうどんどんいなくなる。
こういう生活を、高速道路でぴゅんぴゅんワープして、まったく忘れてしまったんやなあと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日々のこと
感想投稿日 : 2011年12月1日
読了日 : -
本棚登録日 : 2011年12月1日

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