前作『西巷説百物語』から11年ぶりとなる、巷説百物語シリーズの続編が届けられた。今回の舞台は遠野。現在の岩手県遠野市である。『遠(とおくの)巷説百物語』の『遠』とは、遠野を指しているのである。
京極さんは2013年に『遠野物語remix』を刊行している。柳田國男の原著を京極さんが現代語に書き改めたものだが、読み物として大変面白かった。遠野という土地に伝わる伝承の数々が、京極さんの創作意欲を掻き立てたのか。
全6編、1編1編はさほど長くないが、読み進む毎に、遠野という狭い土地に留まらない巨大な陰謀が浮かび上がってくる。何それ、時代は違うが水戸光圀公もびっくりではないか。現在の遠野は至って平穏で長閑なのに。
語り部は宇夫方祥五郎。南部藩筆頭家老の命を受け、遠野保の民草の動向を日々探り、報告している。そんな祥五郎に咄(はなし)を売る乙蔵。この咄というのが実に荒唐無稽なのだが、現実に目の当たりにし、しかも事件は収まってしまい…。
祥五郎が偶然知り合った謎めいた一味は、あの男とも繋がりがあるらしい。毎回、裏で暗躍しているのはこの一味に違いない。種明かしされるのは、いつも事件の終結後。過去作品のような決め台詞がないのが、新しいというか寂しいというか。
おいおい、そんなもの即座に用意できたのは偶然か? 相変わらず彼らのネットワークはすごいが、舞台が自分の実家に近い遠野だけに、愉快な気分になってくる。馴染みのある地名が多く出てきて、地元の大槌まで出てくるとは。
一味は何だか飄々としていながら、あまりに巨大な相手に立ち向かっていた。まさかあんな名前まで出てくるとは。時代が動きつつある江戸末期、ここ遠野にもきな臭い空気は伝わってくる。それでも、一味の矜持は変わらない。
もっと遠野を舞台にした「咄」を読みたいなあ。名残惜しい気分で読み終えたが、久々にこのシリーズを読めて嬉しかった。インタビューによると次作こそ完結編だとか。京極さん、あのシリーズも続編もお願いします。もう15年経ちますよ。
- 感想投稿日 : 2021年7月9日
- 読了日 : 2021年7月9日
- 本棚登録日 : 2021年7月9日
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