しくじった皇帝たち (ちくま文庫 た 37-6)

著者 :
  • 筑摩書房 (2008年1月9日発売)
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4

古本で購入。

隋の煬帝と明の建文帝、偉大なる父が築いた王朝を失った2人の二代目。
この「しくじった皇帝たち」を、中国史読み物の名手・高島俊男が切る!という感じ。

収められた2篇のひとつ目、「隋の煬帝」は高校1年生を読者に想定した、語りかけ形式の文章。
書いてあることは煬帝にまつわる概説と言っていいのだが、著者の煬帝評がいい。

曰く「ふつう」。

Q.煬帝は宮殿の造営や大運河の開削を盛んに行いゼイタクである。そして労働力の徴発と度重なる戦争で人をたくさん殺した。悪虐無道の暴君ではないか!
A.皇帝はみんなゼイタクだし、皇帝はたいてい人をたくさん殺す。これらの点でも煬帝はふつう程度。

隋を滅ぼし、“隋の歴史を編纂した”唐の書くまま煬帝を暴君としてきた「常識」にハナをひっかけるようなバッサリ感がたまらない。
唐高祖・李淵を「偽善者」と両断するのもいいですね。

残る1篇は「露伴『運命』と建文出亡伝説」。
叔父の燕王(永楽帝)に攻められ、燃え盛る宮城に消えた建文帝の「出亡(脱出逃亡)」伝説を素材とした、幸田露伴「生涯第一の傑作」とされる『運命』が、いかにタネ本『明史紀事本末』そのままであり、いかに文章(原文含め)がたいしたことなく、それを無批判に激賞してきた昭和期の知識人がいかにダメかをバッサバッサと切りまくる。
ついには「露伴はやっぱり二流だなあ」と高島センセイ。すごいな。

「皇帝たち」と言いながら出てくるのが2人だったり、内ひとりは話のメインでさえなかったり、加筆部分の文体が変わっていたり、やや残念な本なのは確か。
ただ高島俊男の本がおもしろいのもまた確かなので、読み物として読むのが○。
高島節に触れるなら、まずは『中国の大盗賊』(講談社現代新書)がいいかも。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2013年8月31日
読了日 : 2013年8月31日
本棚登録日 : 2013年8月31日

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