ある晴れた夏の朝

著者 :
  • 偕成社 (2018年7月13日発売)
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本棚登録 : 1068
感想 : 114
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母を日本人に持つアメリカ人、メイは夏休みに「原爆は肯定されるべきか否か」のグループディベートに挑む。

うっかり小手毬さんという作家を知りませんでしたが、これはすごい本でした。 広島・長崎に落とされた原爆については戦争を終わらせるために必要だった、むしろポジティブな形で受け入れられているのがアメリカ、という印象がありますが、このことをテーマにした子どもたちによるディベート対決のお話です。本自体は中学生向けなのかな。文字も大きくてすぐに読めてしまう。でも読んだ後にもたれるこのボリューム感。ずっと頭の芯が熱を持っている状態で、こういう本を読んだのは久しぶりな気がしました。
何しろすごいのがこの多層にわたって込められている情報量。血筋も考え方も「アメリカ人」という一言で括れない人たちの細やかな描写や第二次大戦時の出来事とその関係性、そしてもちろん原爆の是非(戦争の是非)。このテーマを多層に分解して中学生レベルの読み物に落とし込んであるのだから、これはすごい。しかもディベートという競技についてもよく踏み込んでいて、ミスリードや議論のすり替えなんかを(多分登場人物が意図的に)やったりするところも面白いのです。この「アメリカ」への解像度の高さは実際に作者がアメリカ在住だから見えることなのでしょうか。
ともあれ、中学生向けということもあるのか、少し無理にエピソードを畳んだような気もするのですが、なにしろこの難しいテーマを折り込んでコンパクトに優しく描いて見せた小手毬さんに脱帽です。これ、日本人とアメリカ人全員読んでいいと思います。そしてなぜ戦争が起きるのか、なぜ戦争がなくならないのか、平和とは何か、じっくり考える機会にして欲しい。
折しもウクライナ戦争に次いで今年はガザで悲劇が起こり、世界はまた分断と戦争の匂いに満ち溢れるようになってしまいました。そうした中でこういう本とメッセージは世界中のたくさんの人に届いて欲しいと感じました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2023年10月19日
読了日 : 2023年10月19日
本棚登録日 : 2023年9月12日

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