時代は幕末に近い。
麹町の小さな菓子屋「南星屋(なんぼしや)」は、武家が贈答品に使う箱入の菓子ではなく、庶民が日常の楽しみに食べる和菓子を商っている。
主人が諸国を巡り歩いて作り方を覚えたもので、江戸に居ながらにして全国の銘菓が味わえる、しかもとびきり安いとあって、毎日行列ができる。
主人は、還暦を過ぎた治兵衛(じへえ)、その娘で出戻りのお永(えい)、その娘の看板娘お君(きみ)の三人で仲良く商う。
よく店に顔を出す、治兵衛の弟・石海(こつかい)は、乞食坊主のようななりをして現れるが、大きな寺の住職である。
家族それぞれに起きる“人生いろいろ”と、おいしいお菓子の物語。
西條さんの“おじいちゃんと孫”“おばあちゃんと孫”はなんともいい関係。
実は治兵衛には出生の秘密があり、還暦を過ぎた今も、わだかまりがあり、それが元で平穏な生活を乱される。
人情ものとはいえ、結構波乱万丈な物語である。
希望と次回への期待が膨らむ結びもとても良い。
『カスドース』
レシピパクリ疑惑で、平戸藩に訴えられた治兵衛!
レシピは見たことないが、同じものが出来てしまったのだ…
平戸藩の「百菓の図」は実在する。
『若みどり』
菓子職人になりたい、と武家の子息が押し掛けてきてひと悶着。
治兵衛の気持ち的にはむげにできないが…
『まるまるの毬(いが)』
女の子はまあるい気もちで…と言われても、お君は若い娘の潔癖で、女を作って出て行った父を許せない。
『大鶉(おおうずら)』
子供の頃はやんちゃだった、弟・石海との思い出。
『梅枝(うめがえ)』
孫のお君に思わぬロマンス?
揺れる爺。
『松の風』
娘を嫁に出す親の心は松風。うらさびし。
和菓子の名前はダジャレ多し。掛け言葉と言うべきか。
良きことに暗い影を落とす、同業者の悪意。
劣等感に囚われ過ぎると、人は内側から腐る。
『南天月』
最大の試練も、まっすぐな気持ちと菓子への情熱で乗り切る!
いつもそばにある、血の繋がらない弟・石海と食べた「おかし」の記憶は、今では楽しいものに思える。
お君も、自分の進みたい道が見えてきたようだ。
- 感想投稿日 : 2019年10月21日
- 読了日 : 2019年10月21日
- 本棚登録日 : 2019年10月21日
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