汽車旅の酒 (中公文庫 よ 5-8)

著者 :
  • 中央公論新社 (2015年2月21日発売)
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感想 : 17
4

「飲み鉄」のご教祖様であろうか。
時代もあるが、吉田健一氏が乗るのはもっぱら「汽車」であるところが旅情であり、時間がたっぷりあるからたっぷり飲める。
そして、食堂車も良い。
東京を出発して早くも食堂車に行ってビールを飲むと、車窓に映る銀座も、国電から見る時とはまるで違って見える。これは分かる!
どんどん早い列車が現れ、食堂車が廃止され、駅に停車する時間も短くなって、途中で酒を調達するのも時間との戦い、命がけとなったと嘆く。
金沢がお好きなようで、何度も出かけている。ご馳走もたくさん食べていて、美味しいと思っているのだが酔っ払っているので内容をほとんど覚えていないという。ユーモラス。
そして、汽車に乗っている時に雑誌や本は読まないことにしていると書く。理由は、たとえば新潟や岡山に向かっていても、北極の本を読んだら、頭がそっちに行ってしまって、自分のいるところが北極になってしまうから。

それを逆手に取ったのが、【東北本線】という、短編だろう。
夏休みを利用して北海道へ行こうとしている大学生の坂本。
東北本線に揺られながら、関東はもともと人の住むところではないし、いくら走っても車窓はつまらなく、乗っている人々も粗末、などと(失礼であるW)退屈している。
そこに隣に座っていたスーツ姿の大男から話しかけられる。素性は分からないが、中国の広大な大地を語り、ギリシャの密貿易や海賊について語り、日本と文化を比較し、世界で最も古い大陸であるアフリカとブッシュマンを語り、その膨大な知識はとどまるところを知らない。
東北本線に揺られながら、坂本は男が語る世界を旅している気分になる。

【道端】は、「何もないこと」が気に入って、山梨のある村に一軒の家を借りて、毎年夏をそこで過ごす野本という中年の男の話。少し文章がまわりくどく、難解に感じる部分があった。
文明開花というような事が唱えられた結果生じた野蛮な風習の一つが、都会に対する憧憬といったものだという野本。
そういう風潮に流されず、村に落ち着いて、必要な文明だけを取り入れる生活に居心地の良さを感じる。
道が三本交る場所に、村で一軒だけのカフェができた。
バゲットにバタにハム、ビールを注文して、カフェの主人とともに「道」について語る。
道の意味は、人が通ってこそ、ということ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2024年3月26日
読了日 : 2024年3月26日
本棚登録日 : 2024年3月26日

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