河野裕子という歌人、というより、筆者の妻であり母であった女性が乳癌になったこと。そして、数年後(10年未満)他の臓器に転移が見つかり、家族と共に死を迎えるまでの日々が描かれている。
女性が乳房を失うかもしれない、と思ったとき、自分の体や気持ちがどうにもならないとき、パートナーにどう寄り添ってほしいと感じるのか、どんなふうになるのか、受け止める周りの様子も含め、赤裸々に書かれている。
夫であり、歌人である永田によって出来事は回想される。永田の苦しい述懐に、ああ、男の人ってこうなんだよな、と私が思ってしまうのは、私自身が同じような経験をしているからかもしれない。病を抱えた河野の感じた苦しみを想像するしかないのだけれど…私は、河野の怒りを制御できない様子を知り、怒りの裏にある深い絶望感、悲しみに思いをはせるしかない。
自分がある意味、闘病記のたぐい、家族が看取るまでの物語があまり好きではないんだな、と改めて気づいた。
私が現代短歌を身近に感じることができたきっかけはアンソロジーで知った河野裕子の短歌のおかげだ。斎藤史を介して知ったのが最初かな。
そのことだけはこの本を読んだあとも変わらない。これからも私の好きな、大切な、歌人のひとりだ。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2023年12月9日
- 読了日 : 2023年12月9日
- 本棚登録日 : 2023年12月4日
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