距離のとり方がとても難しい作品集だと思った。それは、カヴァンがもつ精神の不安定さと自分のなかにある精神の不安定さとが、妙に乖離するからではないかと感じた。安易に共感もしきれないし、まったくの他人事であるフィクションとして楽しみきることもできない。たぶん、何か一本、自分のなかの線がずれていれば、まるで自分ごとのように胸に染みてくる文章なのだろうと思う。けれども、少しずれる。そのズレが、妙な不協和音を自分のなかに生じさせる。
もっとも印象に残ったのは「霧」。ここまでの大ごとではなくても、似たような「逃亡」は自分も何度も繰り返しているような気がする。ここまでの大ごとでないのであれば、逃げることは人生には必要だと自分に言い聞かせたくもなる。そして、語り手が疾走に爽快感を覚えれば覚えるほど、恐怖が強くなる。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
翻訳小説
- 感想投稿日 : 2020年7月22日
- 読了日 : 2020年7月22日
- 本棚登録日 : 2020年7月22日
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