あなたの人生の物語

  • 早川書房 (2012年8月25日発売)
3.88
  • (62)
  • (57)
  • (45)
  • (12)
  • (5)
本棚登録 : 918
感想 : 81
5

自分には難解すぎて、読み始めると睡魔に襲われの繰り返しで何とか読み終えた。各話の題材、着眼点は面白くて、意味が分からなくても読み切れたというか。

数学的定理の破綻に気づいてしまった数学者の絶望を描く「ゼロで割る」。天才ゆえに周囲の理解を得られず、天才ゆえにその現実を予想できてしまう。そして、一見すると、彼女の振る舞いは統失をこじらせた人間のそれに見えなくもないというのが面白かった。天才数学者の孤独、狂気。人は理解できないものに対してどういうレッテルを貼りがちかとか短い話ながら考えさせられた。「七十二文字」はクローン技術を中世な世界観と傀儡師的発想で描いてみたという感じで、なろうの転生世界でありそうな話だなあと思いながら興味を持って読めた。
表題作である「あなたの人生の物語」は先に映画版を見ていたこともあって、最も理解できたし、物語としても一番楽しめた。映画ではばっさりカットか、かなり端折られていたけど、物理学者たちの調査がヒントになって異星人の文字解析が進展を見せたし、地球人と異星人の考え方の違いも明確に分かるようになっている。現在と交互に挟まれる未来の娘とのやり取りも原作ではより効果的。

映像化したいと思わせるに十分なお話だった。それだけに原作を読んだ後だと、映画版はやはり少し残念な出来に思えたかな。異星人とのコンタクト自体の脚色は悪くなかったのに、他国とのいざこざや、終盤の主人公の覚醒は原作の雰囲気から外れていたように思う。解釈の拡げ方として分からなくもないんだけど、そう拡げてしまうかではあった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2022年3月20日
読了日 : 2022年3月20日
本棚登録日 : 2022年2月19日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする