ふがいない僕は空を見た (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2012年9月28日発売)
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本棚登録 : 10016
感想 : 960
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R2.8.18 読了。

 「晴天の迷いクジラ」に続き、窪美澄さん2作目。
重松清さんの解説にこの小説の紹介文があった。
 「なにより惹かれたのは、どうしようもなさをそれぞれに抱えた登場人物一人ひとりへの作者のまなざしだった。救いはしない。かばうわけでもない。彼らや彼女たちを、ただ、認める。官能が(哀しみとともに)濃厚ににおいたつ世界を描きながら、作者はきっぱりと、清潔に、登場人物の『性(せい/さが)』を受け容れ、それを『生』へと昇華するための五編の物語を重ねていくのだ。どう生きるか、生きてなにをするのか、なんのために生きるのかという賢しさではなく、ただ生きて、ただここに在る—『ただ』の愚かしさと愛おしさとを作者は等分に見つめ、まるごと肯定する。その覚悟に満ちたまなざしの深さと強さに、それこそ、ただただ圧倒されたのである。」

 斉藤君とあんずちゃんのコスプレでの性描写から始まった時には面食らった。ありがち(?)な高校生の男女の性行為への関心、夫婦や姑との関係に悩む主婦の不倫など斉藤君家族や高校の同級生や不倫相手の主婦などどこか心に欠けている部分を持っている人々が織りなす連作短編集。心のどこかが欠けていても生きていかなきゃいけないって、なんか勇気をもらえた気がする。完璧な人間は存在しないし、どこか弱いところがあるからその人が愛おしく思えるのでしょ?なんて。

 私の好みは、貧困や老人介護を抱えていても、懸命に生きていこうとする高校生の福田君の挑戦を描いた「セイタカアワダチソウの空」、斉藤君のお母さんの助産院での日々の奮闘や斉藤君の再生するまでを描いた「花粉・受粉」です。
 特に「花粉・受粉」は生命の誕生にも触れて、お産の大変さも描かれていてちょっぴり母へ感謝しなきゃと思わされる。同名映画も観たい。
 また、窪美澄さんの別な作品も読んでみたい。

・「本当に伝えたいことはいつだってほんの少しで、しかも、大声でなくても、言葉でなくても伝わるのだ。」
・「他人に悪意を向けるためだけに、用意周到に準備する誰かのことを思った。どうか、そのエネルギーを自分の人生のために向けてくれないか、と。」
・「悪い出来事もなかなか手放せないのならずっと抱えていればいいんですそうすれば、『オセロの駒がひっくり返るように反転する時が来ますよ。』」

・「肯定は、『いま』の賛美とは違う。たとえ『いま』がどうしようもないものでも、「いつか、きっと」を信じることが出来るなら、人生や世界は、そしてどうしようもないはずの『いま』もまた、肯定される。
本書の五編の小説は、どれも『いま』のやるせなさにぴったりと寄り添っている。そんな『いま』の物語の先に、まるで倍音を響かせるように、窪さんは『いつか、きっと』の光を灯してくれた。」…(解説より)。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 作家名
感想投稿日 : 2020年8月18日
読了日 : 2020年8月18日
本棚登録日 : 2020年6月21日

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