幻の女 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 9-1))

  • 早川書房 (1976年4月30日発売)
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本棚登録 : 1237
感想 : 150
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古くは古書店で原書と遭遇した乱歩が、他人が既に購入予定で採り置きしていたものを横取りしてまで読んで、大絶賛した本書。
早川書房のミステリベスト100アンケートで第1位を獲得した本書。
また「『幻の女』を読んでいない者は幸せである。あの素晴らしい想いを堪能できるのだから」と誰かが評するまでの大傑作、『幻の女』。
とうとうこの作品を読む機会に巡り合った。
内容は既に巷間で語られているせいか、特に斬新さを感じる事は無かった。また有名な冒頭の文、「夜は若く、彼も若かったが、夜の空気は甘いのに、彼の気分は苦かった」に代表されるほどの美文は特に散見されなかったように思う。それはチャンドラーの文体のように酔うような読書ではなく1日に70ページも進むようなクイクイ読ませる読書だったからだ。
しかし、当初思っていた以上にその内容は趣向を凝らし、読者を飽きさせないような作りになっているのは素晴らしい。
主人公が妻殺しの無実を証明するためにアリバイを立証する幻の女を捜すが、なぜか見つからない。ただこれだけの話かと思ったが、主人公ヘンダースンを取り巻く愛人、無二の親友が当日彼に関わったバーのバーテンダー、劇場の出演者などを執拗に探るが最後の最後で不慮の事故に遭い、徒労に終わること。
これは何度となく繰り返されるプロセスなのだが、それぞれがアイデアに富んでいて非常に面白い。特に愛人のキャロルがそれら関係者の口を割らせるために執拗に付き纏う様はどちらが敵役なのか解らなくなるほど、戦慄を感じさせる凄みがあった。
そして死刑執行当日に訪れる驚愕の真相と犯人に仕掛けたトリックの妙。親友が主人公の妻殺しの真犯人探しのためにわざわざ南米から戻ってくるというのがそこまでするかなぁと思っていたのが見事に腑に落ちる。そして世界が崩れる音が聞こえ、理解するのに何度も読み返した。
やはり傑作は傑作であった。
しかし、私的な感想を云えば、最後に幻の女の正体が判る事は、蛇足だったのではないだろうか。幻の女は最後の最後まで幻の女であって欲しかった。これが正直な感想である。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ミステリ&エンタテインメント(海外)
感想投稿日 : 2020年12月13日
読了日 : 2020年12月13日
本棚登録日 : 2020年12月13日

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