ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団 ハリー・ポッターシリーズ第五巻 上下巻2冊セット(5)

  • 静山社
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感想 : 920
4

今回は終始「怒り」がテーマだったように思う。
とにかく今回のハリーはエゴが前面に出ていて、なんとダンブルドアまでにも歯向かうことになる。

この辺はこのシリーズの隠された仕掛けが見えてきたような感じもするのだが、逆に云えばお行儀のいい主人公を据えるよりも、こうした現代の15歳の子供が見せる傲慢さをきちんと描く作者の姿勢に感心する。

とにかく今回は先の読めない展開だった。
それというのも今まで物語には主軸となるテーマ―賢者の石、秘密の部屋、脱走した囚人、三校対抗試合―があったのだが、今回はヴォルデモートが復活したものの、語られるのは魔法省のホグワーツ校に対する圧制の連続で、ハグリットもいなく、そしてクィディッチすらハリーから取り上げるという設定!一貫していたのはハリーの謎めいた夢のことである。
今までのシリーズの定型を壊す物語の運び方で、こういうプロットだと作者のストーリーテリングの技量が試されるのだが、この作者は色々なロジックを仕掛けており、ところどころで目から鱗が落ちる思いをさせてくれた。

まず一番印象に残ったのは、ハーマイオニーの知略の冴え。
憎きアンブリッジを出し抜くための数々の謀略の見事さには舌を巻いた。特に魔法省に黙殺されていたヴォルデモートの復活に対して、ゴシップ紙「ザ・クィブラー」にわざとハリーのインタビューを載せて、アンブリッジに「ザ・クィブラー」禁止令を出させた時の、「記事を読んだ事を認めることが出来ないがためにヴォルデモートの復活に対するハリーの意見に反論できない」という論理などはチェスタトンの逆説を髣髴させるほどだ。

他にはセストラルという動物がなぜ特定の人物しか見えなく、さらに今までハリーの目に見えなかった理由にも驚いた。こういう細かい仕掛けがこの作者は本当に上手いと思う。

そしてシリーズの後半に差し掛かった本書でも大きな別れがあった。今まで愉快なサブキャラとして物語に彩りを加えていた双子のフレッド&ジョージ・ウィーズリー兄弟の退学、それとシリウスの死。そして敵役であったマルフォイ親子がもはや敵として眼前に出てきた事も物語が佳境に近づいている事を気付かせてくれた。

今までこのシリーズの読者が抱いていた「ダンブルドアはハリーをひいきしていないか?」という疑問に今回はきちんと明示して答えているのが驚いた。また前作の感想でハリーを特別扱いする件について理由を示した事を書いたが、今作ではさらに突っ込んで、作者が意識的にハリーに英雄癖(物語中では「人助け癖」と語られている)があることをハーマイオニーの口から指摘しているのも斬新だ。
これで前回以上にハリーを特別な人物として描いていた事が自覚的であることを示唆し、またこれをハリーが過ちを犯すファクターとしているのも興味深い。
こういうシリーズで主人公がトラブルに陥る(首を突っ込む?)のは常套手段であるのだが、こんな風にあからさまに登場人物の口から提示するのを見た(読んだ)初めてだ。

かてて加えてハリーの父親が聖人君子、ヒーローの如く描かれておらず、むしろ自分の魔法使いとしての優れた資質を鼻にかけた嫌な人物として描いた事にも驚かされた。それを息子であるハリーに見させて、アイデンティティーを喪失させるなどは、現実の思春期を迎えた青少年・少女が直面する苦悩を用意させ、単なる娯楽読み物として終わらせていない。
こういった細かいエピソードを筆惜しみをせずに書くこの作家が単なるファンタジー作家と一線を画していると強く感じた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ファンタジー
感想投稿日 : 2022年2月2日
読了日 : 2022年2月2日
本棚登録日 : 2022年2月2日

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