チェルノブイリの祈り――未来の物語 (岩波現代文庫)

  • 岩波書店 (2011年6月16日発売)
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感想 : 114
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このドキャメンタリー文学を読み終わった後、何も感じるものがなかったという人はいないと思います。いえ、正しくはそんな人が1人でもいてはいけないと思うのです。
時々、何も知らない方が幸せなのかもしれないと思ってしまいます。知るということは、ともに何かを背負うことになるんじゃないだろうかと。それは国によれば今まで信じてきた大義が覆ることかもしれないし、個人に降りかかる恐ろしい事実に絶望するしかないかもしれない。それでも、人として生きている以上は、知ることに躊躇してはいけないんだと、この本を読んで思い直したのです。
この本には巨大原発事故に遭遇した人々の悲しみや衝撃の声が詰まっています。事故後チェルノブイリ人とよばれることになってしまった人々。防護服もなにもないまま命令に従い事故処理作業に従事した男たち。汚染地に留まり続ける老婆たち。戦火の故郷を離れて汚染地で暮らす若者たち。子どもを産むことが罪と言われる女たち。笑顔を忘れた病弱な子どもたち……事故が起こるまで幸せに暮らしてきた普通の人々が語る言葉にまさる真実はないと心が震えました。国家が国という面目を守るために、そこに住む人々にどれだけ酷いことをしてしまったのか。それを信じることが当たり前の世の中で生きてきた人々はどれだけ重い十字架を背負うことになったのか。彼らのほとんどが、話すことに躊躇します。それでも、語りはじめる真実に目を背けちゃいけないと思いました。
25年後に起きてしまった未来の物語「フクシマ」原発事故から、わたしたちは未来のために何を学ぼうとしているのだろう。わたしはちゃんと理解しようとしているのだろうか。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: スラヴ文学
感想投稿日 : 2018年3月1日
読了日 : 2018年3月1日
本棚登録日 : 2018年3月1日

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