フォロワーさんのレビューから読んでみたくなりました。
まず『ゼロの焦点』このタイトルが格好いいです。読み終えてから「ゼロ」と「焦点」の意味を考えました。これは犯人となってしまった人物の人知れず抱えてきたものなんだろうなと思うと、苦しかっただろう、怖かっただろうと、心が痛みました。
そして、北国の冬の景色。
暗鬱とした空のした。風が吹きすさぶ崖の上……
『その辺は磐と枯れた草地で、海は遥か下の方で怒濤をならしていた。雲は垂れさがり、灰青色の生みは白い波頭を一めんに立ててうねっていた。陽のあるところだけ、鈍い光が留まっていた。』
時には繊細に、時には大胆に。その描写の美しさには何度も心を持っていかれます。
事件は、終戦直後という時代が引き金となったといっても過言ではありません。生き抜くために生じた傷は一生消えることなく痕を残します。そして運命の悪戯か、ある出会いによって犯人の傷がふたたび開いてしまった……
ヒロインとして行方不明の夫を探す禎子が、犯人を憎みきれず、かぎりない同情を覚えてしまうということが、わたしには自然なことに思えました。なぜなら、そこには犯人と同じ時代を生き抜いた禎子だけでなく、読者にも犯人がそうせざるを得なかった哀しさ、困難な状況、そして消えることのない過去が生涯に渡ってどれほどの影を落とすのか……などが伝わってくるからです。
犯人の語るべき動機、犯行方法、そういうものは全て海の底へと沈んでしまいます。真実は泡となり事件は終わりを告げます。
推理小説としてそれが不満かと言えば、わたしは決してそんなことはありませんでした。この作品のそんなうやむやな部分にこそ、昭和という時代の歪みから生まれた闇が映し出されているのではないかと思えて、作者からもっと大きな主題を与えられたように感じたからです。そしてそのことが、いつまでもわたしの中の何かを疼かせ続けるのです。
- 感想投稿日 : 2020年4月12日
- 読了日 : 2020年4月11日
- 本棚登録日 : 2020年4月11日
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