砂の器(下) (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1973年4月3日発売)
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感想 : 296
4

もしも。
もしも、あの時。
もしも、あの時、過去に戻れたとしたなら。
彼は彼の人生のどのあたりまで戻ればよかったのだろう。
過去を遡れども遡れども、彼の力ではどうすることもできない〈社会〉や〈法〉というものが、彼の宿命を決定づけていたのならば、彼はどうすればよかったのだろう。
過去に戻れたとして変えるべきだったのは、彼か、それとも彼を生み出した社会だったのか。この社会こそが『砂の器』なんだ。

読み終えていちばんに考えたことだ。
上巻を読んだときは、被害者がなぜこんな目にあったのか。善行の人である被害者に裏の顔があるとも思えないし、もしかして犯人の逆恨み、それとも犯人に対して被害者は何らかの地雷を踏んだのか。そんな動機の部分が気になって仕方なかったのだけど、それよりももっと重要なテーマが、実はあるのではないかと気づかされた読後感だった。

今西部長刑事の捜査はしだいに犯人に近づいていく。何度も犯人によって辛苦をなめることになりながら、それでもこつこつと事件に向き合う、これこそが刑事の執念というべきものだろう。
若手の吉村刑事は、その老練の刑事の背中を追い、そして信頼しあうバディとなって事件を追う。
私は上巻で〈ヌーボー・グループ〉と今西部長刑事の生き方の対比が面白いと思ったのだけど、クライマックスで今西刑事が吉村くんへと伝えたひと言に、また違う面白さを味わうことになった。
〈ヌーボー・グループ〉と吉村くん。古きものを嘲笑し、蔑ろにして新しいものを求めていく生き方と、古きものを敬い継承しながら、新しく自分の道を切り開いていくものの、若者たちの対比。
ホシをあげる、そのいちばんの見せ場。そこでの今西部長刑事から吉村刑事へのバトンタッチ。
「本人に逮捕状を見せるのは君の役だ。君がしっかり本人の腕を握るんだよ」
今西部長刑事の言葉に胸が熱くなり、ぐっときたのだ。

清張さん没後30年。読めるだけ読んでみたい。
        『この作家この10冊』
        『文豪ナビ 松本清張』より
☆ゼロの焦点    黒い福音
☆点と線      球形の荒野
☆波の塔      神々の乱心
☆砂の器     ☆或る「小倉日記」伝
 黒の回廊     天城越え
 かげろう絵図   一年半待て
 黒い手帖(随筆)  家紋
 Dの複合      顔
 西郷札      鬼畜
 けものみち    黒地の絵
 無宿人別帳    カルネアデスの舟板
 大奥婦女記    日本の黒い霧
 彩色江戸切絵図  現代官僚論
 乱灯 江戸影絵   昭和史発掘
 天保図録     陸行水行     
 西海道談綺    古代史疑
 私説・日本合戦譚 天皇と豪族
 私説古風土記   ペルセポリスから飛鳥へ
 張込み(なおなおさんよりオススメ)
 共犯者( 同上 ) 
 声( 同上 )     
 砂漠の塩( 同上 )         

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本文学:著者ま行
感想投稿日 : 2022年8月29日
読了日 : 2022年8月29日
本棚登録日 : 2022年8月29日

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コメント 12件

なおなおさんのコメント
2022/08/29

地球っこさん、こんばんは。

レビュー、ありがとです。
松本清張氏の「砂の器」……好きです。
中学の時に、2日にわたって映画を理科室で観たんですよ。何の授業だったんだろう…国語と理科の先生が担当でしたが。よく覚えております。皆黙って真剣に観ていました。
映画は、加藤剛×丹波哲郎+森田健作出演。
海岸を歩く父子の姿と別れに涙しました。
当時の私はどんな感想を持ったのかな…親にお願いして小説を買ってもらい、初めて読んだ大人の本が本書だったと記憶しています(渋い^^;?)。
私も他の松本清張の本を読めるだけ読んでみたいです。
短編集ですが、「張り込み」と「共犯者」が好きで、何度も読んでおります。

地球っこさんのコメント
2022/08/29

なおなおさん、こんばんは☆

「砂の器」お好きなんですね。中学の授業で観られたとは、衝撃的だったでしょうね。いろんな思いが10代の皆さんの心に駆け巡ったことでしょう。
何の授業かな、やっぱりハンセン病患者やその家族への差別についてとかなのかな。
その映画は観てみたいと思ってチェックしてあります。

清張先生が描く昭和の雰囲気が色濃く残った推理小説がとても好みなんです。
「張り込み」と「共犯者」もぜひとも読んでみたいと思います♪
私の本棚は、これから一層、好きなものにこだわったものばかりが並ぶと思いま~す。

地球っこさんのコメント
2022/08/29

「張込み」と「共犯者」、読みたいリストに追加しました。ありがとうございます♡

なおなおさんのコメント
2022/08/29

地球っこさん、お返事をありがとうございます。
あの授業はただの映画鑑賞会ではなく、社会とか道徳の時間で、病気や差別について先生方が課題を出したのだと思っております。
あの海辺を歩くシーンが忘れられず、父子寄りの見方をしたような気がします。

読みたいリストにさっそくありがとうございます。
「張り込み」の中に、鬼畜、顔、カルネアデスの舟板などが入っておりました。一部被ってすみません。
ちなみに「顔」「声」が好きです(好きっていうのも変ですが)。
このレビューを参考に、私も選書します(^^)
芥川賞を受賞した「或る「小倉日記」伝」は読まなきゃ…ですね。芥川賞と聞いただけで私には難しそう…(T_T)

地球っこさんのコメント
2022/08/29

なおなおさん

「張込み」の件、了解しました。
清張さんが芥川賞って不思議な感じです。
ずっと前に読んだのですが、その頃はまだ難しくて感想が書けなかったんだと思います。再読しレビューを書きたいと思います。
今まで読んだなかでは(ほんの数冊ですけど)、「波の塔」が好きです。
美しい女性に翻弄されるかのように若くやり手の検事がぼろぼろになるんです(ふふふ、イヤな趣味してますね、ワタクシ)。
この検事に小泉孝太郎さんを妄想して読んでいたのですが、なんと小泉孝太郎さんでドラマ化してたことを後から知りました。また観てみたいです。たぶんピッタリだと思います♡

なおなおさんのコメント
2022/08/29

地球っこさん、「波の塔」ですね!面白そう!小泉孝太郎さんがイメージキャラクターとのこと。了解です!
「砂漠の塩」も良かったです。不倫の話で逃亡劇だったかな。舞台が中東(バグダッドだったかな)というのが珍しくて夢中になって読みました。

地球っこさんのコメント
2022/08/29


「砂漠の塩」了解!

地球っこさんのコメント
2022/09/02

なおなおさん、こんばんは☆

「砂の器」の映画観ました。
捜査過程とか、現代部分はだいぶんアレンジされていましたが、その分、父子の旅の様子や別れの時の過去部分は、原作よりも丁寧に描かれていて胸を打ちました。
最後演奏された「宿命」は、すごく胸に迫ってくるものがあって、感動しました。

「宿命」とは
“もっともっと大きな
強いものだ
つまり
生まれてきたこと
生きているということかもしれない”
と言った彼の言葉がとても印象的でした。

そして、加藤剛さんハンサムでした……

なおなおさんのおかげで、観ることができました。
観てよかったです。
ありがとうございました(*^-^*)

なおなおさんのコメント
2022/09/03

地球っこさん、こんばんは。

さっそく映画を観られたのですね。報告をありがとうございます。
音楽も良いですよね…(;_;)
私、中・高とかなりかなり昔に観ただけで(確か2回)、原作との違いなど分かっておらずすみません。
「宿命とは〜」のところ、加藤さんの言葉でしょうか、身にしみますね。
加藤剛さんの画像を確認しました。ホントだ!カッコイイ♡
(中居クンのドラマも良かったですよ)

地球っこさんのコメント
2022/09/03

そうです、和賀英良(加藤剛さん)の言葉です。
昭和の俳優さんて、イケメンという言葉よりハンサムという言葉が似合う気がします(*^-^*)

なおなおさんのコメント
2022/09/03

地球っこさん、ごめんなさい^^;
地球っこさんが「ハンサム」と表現されたのを読んで実は笑っちゃったんです。今は「イケメン」という時代だから。
でもでもっ!なるほど〜☆加藤剛さんのような方はイケメンというと軽くなるかも。
さすが地球っこさんですわ(*゚▽゚)ノ
昭和=ハンサム、平成〜=イケメン ね!
了解です(`・ω・´)ゞ

地球っこさんのコメント
2022/09/03

うふふ、そうなんです。
あえてのハンサムです(*>∀<*)
よくぞ気づいてくださりました 笑
昭和の俳優さんて、なんか凄味や色気や落ち着きや、なんやかんや同じ年齢の今の俳優さんとは、ちょっと違う重さがある感じがするんですよね~

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