悪夢はどこまでも追いかけてくる。
罪を犯せば償わなければならない。
秘密を持てば孤独になる覚悟を持たなければならない。
闇に引きずりこまれたなら自分の足で出ていかなければならない。
熱に浮かされたような時間もやがて過ぎ去る。
その後にはいったい何が残るというのだろう。
後悔、喪失感、寂寥感……
残されたなかに幸せの種は見つかるのだろうか。
今多コンツェルン広報室の杉村三郎は、事故死した同社の運転手・梶田信夫の娘たちの相談を受ける。梶田信夫は、同社会長であり杉村の妻・菜穂子の父でもある今多嘉親の個人運転手だった。
亡き父について本を書きたいという彼女たちのために、一見普通な梶田の人生をたどり始めた杉村の前に隠された秘密が浮かびあがる。さらにその秘密は別の方向へとも繋がりはじめ……
探偵でも刑事でもない杉村は、謎を解くというよりも、心に突き刺さった刺を見つけるきっかけを与えてくれたように思う。
ただし刺を抜くのも、そのままにするのも、杉村の役割ではない。それは彼が薄情なことでも、まして逃げることでもないはずだ。
なぜって結局、答えをだすのは刺を育ててきた人間でしかないのだから。
その結果、真相は藪の中だろうと、後味の悪さを残したままであろうと、それはもう仕方がない。
だって人間とはそんなに簡単に割りきれるものではないだろう?人とは所詮こういうものなのだよ。そう囁かれているようだった。この読み心地、ああそうか松本清張作品に似てるのかな。
そういえば杉村も松本清張意識してたよね。
それにしても探偵の役割をする杉村さんて、こんなにも他人の心の澱に触れて大丈夫なのかな。
探偵としては、まじめすぎじゃない?
ちょっと心配だ。
- 感想投稿日 : 2020年11月28日
- 読了日 : 2020年11月28日
- 本棚登録日 : 2020年11月28日
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