歌川国芳猫づくし

著者 :
  • 文藝春秋 (2014年3月25日発売)
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感想 : 42

江戸時代末期を代表する浮世絵師の一人であり、画想の豊かさ、斬新なデザイン力、奇想天外なアイデア、確実なデッサン力を持ち、浮世絵の枠にとどまらない広範な魅力を持つ作品を多数生み出した歌川国芳。
大の猫好きとしても知られた国芳が、個性豊かな弟子達とともに、身の回りに起きた「猫」にまつわる事件を解決する全7話からなる連作短編集です。

作者は、時代小説を多数手掛けているため、大変読みやすく、浮世絵に詳しくない方でも、時代小説として軽く読めるものとなっていると思います。

タイトルが猫づくしとなっていることもあり、国芳の猫に対する愛情が随所に描かれています。
「猫がいなくなった時の寂しさは、愛猫家でなければわかりはしない。猫といっしょに自分の膝までなくなってしまったような心持ちがするのだ。猫がいなくなると、猫に置いていかれた気持ちになるのだ。」
との言葉に溢れる猫愛を感じました。

また、葛飾北斎とその娘のお栄(応為)、月岡芳年、歌川広重、初代三遊亭円朝などなど、登場人物がとにかく豪華!!
私は、応為がものすごく好きなのですが、本作ではめちゃくちゃトリッキーなキャラクターで登場し、また、それも一つの考察として楽しいものとなっています。

同じ絵師でも、北斎は、見る者の気持ちより、自分の描きたいものを優先させ、国芳は、見る者に喜ばれる絵を描きたい、見る者を笑わせたい、驚かせたいと、常に見る者を意識して絵を描いたという、北斎と国芳の違いについての考察も興味深いです。

江戸っ子気質でお上を恐れぬ威勢の良さで知られた国芳ですが、老境に入り、老いへの戸惑いから死神を描きたいという思いに、しだいに囚われるようになります。
国芳は、歌舞伎役者の団十郎の幽霊に、絵師の仕事はいつまでも残るものだが、役者の仕事は、客が帰ったら消えてしまう寂しいものだと言われます。
しかし、国芳は、絵師も役者と同じく寂しいものだと感じます。
絵も文も時代の上に立っていて、時代が動けば、絵や文も置き去りにされ、やがては忘れられる。
自分のやっている仕事に虚しさを感じた国芳ですが、だからと言って、仕事の手をぬくつもりなどはさらさらなく、いま、ともにこの時代を生きる人たちに面白がってもらえる絵をこれからも描き続けたいと、より決意を固めます。
そして、“自分のため”に描くつもりだった死神の絵への執着を、「そんなもの描く必要はねえ」と切り捨てるのでした。
「わっちは町絵師なんだ。面白がらせて、満足させて、おあしをいただくのが稼業なんだ。」
という言葉には、国芳の“見る人を喜ばせたい!”という確固たる信念が表れ、その信念は、色褪せることなく、時代を越え、現在でもたくさんの人々を魅了し続けています。
根強い国芳人気の理由がわかる一冊です。

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感想投稿日 : 2016年5月9日
本棚登録日 : 2016年5月9日

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