プリティが多すぎる

著者 :
  • 文藝春秋 (2012年1月24日発売)
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(No.12-13) お仕事小説です。

『新見佳孝は名門と言われる老舗の出版社「千石社」に入社、狭き門を突破し本当に嬉しかった。初めての配属先は日本を代表する週刊誌「週刊千石」編集部。これは良くあることで、ここで先輩たちの雑用をして裏方として働き2年、次の移動先に胸を膨らませていた。文芸部門への希望を出していて、感触は悪くなかったはず。が・・・申し渡されたのは想像もしていなかった雑誌「ピピン」編集部だった。名門にして大手の我社がこんな雑誌を出していたなんて失念していた、そこになぜ自分が行かなくてはいけないのか?

今日から出勤するピピンの編集部は、本館でなく昔建てられ今は寂れた別館にあった。入って挨拶すると「男の子なんだ」「大丈夫?」「まあいいか、だめならだめで、上のえらいさんにでも言って早めに替えてもらってよ」とあからさまな落胆の声。編集長以外は全員女性。なんなんだ、我慢して来たのに、向こうからそんなことを言われるなんて。』

これは青年の成長物語ですが、出版社の裏事情が透けて見える話でもあります。
「ピピン」はローティーンの女の子向け月刊誌。ピピモと呼ばれる読者モデルが活躍するファッション誌です。これを大手出版社が出しているのですが、実は編集部に社員は編集長と今度配属された新見の二人だけしかいないのです。
新見は都合で急遽移動せざるをえなかった女性社員の後釜です。副編集長さえ契約社員。「給料の分だけはしっかり働いてね」など言われてしまう新見ですが、そう言いたくなる編集部の女性たちの気持ちが分かります。とりあえず会社とのパイプ役の編集長は我慢するとして、前の女性社員は戦力になっていたのに今度の「男の子」はほとんどお荷物じゃないの。正社員だから給料は高いはずなのに。
女性たちが心配したように、新見は次から次へとミスをやらかします。この業界のことを知っていたらやらなかったミス、もっと気をつけていたら避けられたミス。女の子の雑誌なんてと内心バカにしていた新見は、一生懸命に駆け回りミスを修復し、雑誌に貢献しようと頑張るようになります。つまりけっこう優秀な社員なんですよ、彼は。何の知識もなく放りこまれた部署で、それなりにやっていけるほどに。

これは小説ですが、多分かなり本当に近いことが描かれているんだろうなと感じて、いろんなことを想像(妄想ともいう)しました。
出版社の端っこの方で、ほとんどが契約社員で作られている雑誌。でも何人かは正社員を配属する必要があるでしょう。一人は編集長。あと一人、優秀だけれど経験が不足しているのを配置するのは、そこに置いて育てようとしているんだと思う。いかにその雑誌を軽視しているかってことですね。その雑誌に賭けている人がたくさんいるってのに。新見の前の社員は女性でした。正社員としてとったけれど、若い女の子だからとそこに押し込まれたのかも。彼女も自力で頑張ったのかな。

根が優秀な新見は、ミスを犯しても何とかそれを償って大事にいたらないようにやってきましたが、ものすごいポカをやってしまいます。
ダークな展開になりましたが、辛うじて少し上向きに終わったので救われた気持ちになれました。

やたらポップな表紙ですが、そこにいる新見の顔は内容を良く表していると思いました。

いろいろな題材で書いている大崎さんですが、本関連のものが私は好きです。
中でも出版に関わるものが気に入っていて、これはある雑誌編集部の話。
今までほとんど知らなかった分野の雑誌なので、その辺のいろいろも教えてもらって満足できました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 現代小説
感想投稿日 : 2012年2月20日
読了日 : 2012年2月20日
本棚登録日 : 2012年2月20日

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