玄関の覗き穴から差してくる光のように生まれたはずだ(1400円+税 ナナロク社)
- ナナロク社 (2017年12月19日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (136ページ)
- / ISBN・EAN: 9784904292778
作品紹介・あらすじ
男子高校生ふたりの七日間をふたりの歌人が短歌で描いた物語、二一七首のミステリー。最注目の新世代歌人、初の共著。
感想・レビュー・書評
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木下龍也さん・岡野大嗣さんによる「男子高校生ふたりの七日間をふたりの歌人が短歌で描いた物語、ニ一七首のミステリー」とのこと。
この歌集、ヤバい!
最高にミステリアスで、木下さん岡野さんのプロット勝ち!
何か起きているのかもしれないし、起きてないのかもしれない。
(そもそも短歌とは自由なので、彼ら少年の内面を歌っただけかもしれないから)
ちょっと中二病入ってるかな~なんて思いながらも、この設定を存分に楽しんだ。
と言いつつ頭が混乱してもいる。
読み解けなくて謎な部分も多いのだ。
信長の歌から、彼らは18歳だと見てとれる。
【木下さん側の少年】
父親を亡くしている。
殴ったり蹴ったりするような父親だったようだが、現在の母親に対しても何かありそう。
こんな短歌がある。
「うつむいて何も言わない母さんに殴られたくて遺影を殴る」
繊細で、尖った感じの印象を受けるけれど、別の歌に「油まみれのぼくのたましい」という表現もあって、きっと自分でも嫌気がさしているんだろうと思われた。
やり場のない気持ちを感じる。
やり場のない、何か物足りない感じについては、この言葉からも伺えた。
「THEのような何かがぼくの日々に足りない」
また、何か錠剤を噛んだりシリカゲルを口に含んだような表現もあって危うい。
『カラマーゾフの兄弟』を読んでいる。(確か、父親殺しの疑いをかけられた子の話だった?)
「きみ」とは、想いを寄せている女の子の事だろうか。
ただ、「きみがまだ生きていたなら」と歌われてるのに、すぐ後にも「きみ」が登場したりと、生死の概念が不明。
それとも、"きみ"って、特定の個人ではないのだろうか?
「ひとつかみ百円でいいだれかだれか心の穴に手を入れてくれ」
この歌は、彼の精一杯のヘルプだろうか。
印象的だった歌は、
「目をそらし話をそらしファミレスのこのひとときを弱火で生きる」
【岡野さん側の少年】
一人っ子。
自室は四畳なのだろう。
二段ベッドの下では母親が寝ている。
何度か"僕ら"と出てくるし、お互いの歌に返歌もあるので、木下さん側の少年とは友人と思われる。
「置いてかれたんじゃなく好きで残って」や、
「帰りたくなかっただけだった」や、
"夜毎何か話があるような顔で母はおやすみと言う"等、こちらも親子間で確執がありそう。
「シャチハタの回転棚に探すとき許せなくなる自分の名字」
「帰る場所は買える 父さんは買いました プライスレスな何かのために」
「マッチ棒を並べて作った〈父〉の字は焦げ終わっても〈父〉をしていた」
そして彼もまた、
「わずかだけ期待がよぎる金魚鉢のぞくとき共食いのシーンの」など、
生と死の意味や、言い表せぬ思いを抱えている。
「持ち主のよくわからない絶望はさわらずに海へお叫びください」
木下さん側の少年の「THE」の歌と響き合うように、"ダイソーにも肉眼で確認できる程の「ザ」が付いていて傷付く"という内容の歌がある。
少年二人は、境遇も少し似ているのではないか。
何か同じ思いも共有しているように思えた。
印象的だった歌は、
「瓶ラムネ割って密かに手に入れた夏のすべてをつかさどる玉」
日付順に並んでおらず、妙な位置に挿入される7月7日。
文字が斜体となって乱れる歌があり、帯で"ミステリー"の文字を読んでいた私は一気に不穏なムードに支配された。
特に木下さん側の少年の短歌、
「ね え見て よ この 赤 今後 見せ られる ことな いっすよこの量の 赤」
え?何これ。
赤って血?
何かやらかした?
岡野さん側の少年も
「Googleに聞いてもヒット0だったからまだ神にしかバレてない」
と歌う。
けれど、そんな彼らの短歌には、お寿司を食べているらしき歌もある。
何も起きていない………の?
放課後や弁当などの青春時代には欠かせないワードや、スプライトや夏などのキラキラ感の合間に、不穏な気配が見え隠れする。
死と生と性への憧れと動揺。
目次を見ると7 /1からの7日間を歌った歌集のようだけれど、何故か7/7が、7/4と7/5の間に位置している。
青春の1ページに関しては、男性が読むと一層共感できるんだろうか。
若くて青くて、持て余してるものが何かも分からないまま突っ走ったあの頃…が、溢れていた。
でもそれらが、歳を重ねた私には眩しい。
そして危なっかしい。
未熟と成熟の同居。
熱いと思うと急に冷めたり、本気かと思うとシラケていたり。
舞城王太郎さんによる「特別付録冊子」の1つ目は「掌握1」。
歌集の男子生徒と同級であると思われる女子たちの他愛もない日常。
猫を探して川縁へ。
他愛がないのだけれど、かけがえのない日常。
「大した内容じゃなくていい。どうせ電車が走り続ければいいだけの、そのときだけのものだ。」
「だから適当に持ち合わせてたチラシを空に撒くみたいにして続ける会話のほうが安心だ。」
「特別付録冊子」の「掌握2」も女子たち。
"私"が「掌握1」の"私"なのかも、ここに居る女子たちが「掌握1」に混じっていたのかも定かではない。
ただ、ひょんなことから"死"や"お化け"の話になる。
それでも彼女たちは何事も無かったかのように青木慎一郎の家をあとにするのだけれど。
木下さんと岡野さんが詠んでいる二人の男子高校生のうち、1人は青木慎一郎なんだろうか??
けれど、木下さん側の"きみ"とは、烏丸ちゃんなのではないか?
彼女は、彼氏でも友達でもないなんて言っているが、それこそ女の子特有の小悪魔的な感覚というか。
何の解説もないまま、不穏なムードを漂わせたまま、しかしそれら全てが空想(何も起きていない)ではないかとも思わせたまま、歌集は終わる。
個人的には、何も起きていないで欲しい。
この危うくも眩しく揺らいでいるのが青春だと。
ラストページ、救われるような一首が。
(二文字下げているので、詠んだのは岡野さんかしら?)
「倒れないようにケーキを持ち運ぶとき人間はわずかに天使」
これってバースデーケーキ?19歳を迎えたってことかな?
そうだったらいいなぁ。
色んな事で悩みながら、傷付きながら、いつしか大人になってゆくものだから。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
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ベルガモットさん、お返事ありがとうございます♪
fukayanegiさん、5552さんもこんばんは!
ベルガモットさん、本のレビューだけで...ベルガモットさん、お返事ありがとうございます♪
fukayanegiさん、5552さんもこんばんは!
ベルガモットさん、本のレビューだけでなくイベント報告これからも大歓迎です!ドキッとするこの本読みたいです。
fukayanegiさん、『オールアラウンドユー』図書館へのリクエスト通ったんですね!おめでとうございますパチパチ!レビューお待ちしてます♪
5552さん、この本がなんとお手元にあるとは!積読段ボールは宝箱ですね♪ぜひ探し当ててくださいね。2022/12/04 -
ベルガモットさん、こんばんは!
皆さんもこんばんは。
コメント出遅れましたっ。
先日オールアラウンドユーを手にしてから、繊細なのにユーモア...ベルガモットさん、こんばんは!
皆さんもこんばんは。
コメント出遅れましたっ。
先日オールアラウンドユーを手にしてから、繊細なのにユーモアもある木下さんの短歌にうっとりしています。
トークイベント参加されたんですね、いいなぁ。
お会いして、直接お話も聞けて、サインも頂けて、全てがベルガモットさんの宝物になって、全てが励みになりますね。
こういう機会って、心の泉が満たされますよね~。
ここ数年は行動しづらかったので、好きな美術館巡り・お寺巡りが出来ずに、私は泉が干からびてます笑
話がそれました。
高校生二人の七日間を描いてるんですね。
タイトルも瑞々しいですし、とっても気になります。
機会があったら読んでみたいと思います♪2022/12/04 -
皆さん、こんばんは!コメント嬉しくて読み返しております。
fukayanegiさん、『オールアラウンドユー』図書館へのリクエスト通って...皆さん、こんばんは!コメント嬉しくて読み返しております。
fukayanegiさん、『オールアラウンドユー』図書館へのリクエスト通ってお手元に届いたタイミングとは素晴らしい!!!レビュー楽しみにしていまーす。これでお住まいの方が手にする機会を設けてくださり短歌界の後押しになりますな♪
111108さん、本のレビューとともにこれからもイベント報告しちゃいますね!
岡野さんは赤のカーディガンに赤の靴下で木下さんは緑のセーターで「クリスマス仕様です」と木下さんがニコニコしながら話していたんですよ~
可愛い息子たちを見ている気分でした☆
傍らに珈琲を。さん、短歌にうっとり、トークにうっとり至福のひとときでした☆私の名前を記したサインの字が美しくて、何度も眺めております♡「心の泉」素敵な表現ですね!美術館やお寺巡りこれからできると良いですね!(私はこっそりしております)2022/12/05
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男子高校生の視点から書かれた歌集だからか、性や死に関する青臭いとも言える真っ直ぐにぶっ刺してくる歌が多い。
ぶっ刺さった歌が多過ぎて全部はとても書けないけど、一首だけ。
知ってる場所で解体工事が始まってて建ってたものを思い出せない
巻末の舞城王太郎氏による女子高生達を主役にした短編もエモくて良かった。
それにしても7/7の歌は文字が微かに斜めになっていて
右へ、左へと
不安定に揺れる感じ
7/4の後に中途半端に挟まれてるし
あれ、なんなんでしょうね
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木下龍也と岡野大嗣による合作。それでいて舞城王太郎の掌編も入ってる豪華な作品だ。まずは木下龍也の短歌から。
死ねとつぶやいた翌日エアリプのように置かれる隣町の死
岡野大嗣
倒れないようにケーキを持ち運ぶとき人間はわずかに天使
エロもあり笑いもあり憎しみもあり遠いような近いような危うい死もあるそんな思春期の男子高校生を綴った作品集だった。舞城王太郎が読みたい方だけでも面白いかもしれない。 -
男子高校生の気持ちが現された短歌。とても新鮮だった。どうやら二人の男子高校生の一週間を唄ったミステリー仕立てらしいけど(二段下がってるかで詠み人見分けるそうだ。最後の著者紹介の段と同じなのだろう)、不穏な短歌があるなー、くらいでミステリーはわからなかったなぁ。
中学生以上にオススメ。短歌意外と面白いって思いそう。
『人肉と人工肉の違いってたった三画だけなんですね』『下敷きを敷かずにできた筆跡の溝に時間の妖精がいた』『消しゴムにきみの名を書く(ミニチュアの墓石のようだ)ぼくの名も書く』『夏服に透けるホックを念力で外す訓練中の童貞』『ボス戦の直前にあるセーブ部屋みたいなファミマだけど寄ってく?』『瓶ラムネ割って密かに手に入れた夏のすべてをつかさどる玉』『平日のイオンモールをきみといく嫌いな奴の名を言い合って』『ひとつかみ百円でいいだれか心の穴に手を入れてくれ』『神は僕たちが生まれて死ぬまでをニコニコ動画みたいに観てる』
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「青のすみか」にハマっていて、最近無限ループしている。青春、というのは自分が青に喩えられるようなみずみずしさを失ってから知るものなんだという気が最近している。7月、夏のはじめ、目まぐるしく変わる天気と、気温と情景の合間で、二人の男子高校生の7日間がゆるゆらと見えている。大人になる直前期の、万能感と閉塞感の狭間で、「青春」がワンカットされ、ラベリングされていく。持て余した性欲に支配されて獣になったり、ワカモノらしくバカになってみたり、ふと肉体の生命力を振り切るように死に手を伸ばしてみたり。くだらなくても、きっと二人、必死に生きていた7日間だったんだろうと思う。タイトルの一句のように、それが全てだった青春の日々も、やがて美化された解釈が付けられていって、思い出になるのかもしれない。わたしの短歌入門本でした。とても面白く、引き戻されそうになりながら夢中で読み切りました。
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歌詞を書く身としてはキャッチーでポップで、なおかつ深遠な言葉が無いかといろいろ自分の引き出しを引っ張り出しますが、これを読むと、やはり短いセンテンスで想像を掻き立てる短歌や自由律俳句とか楽しそうであこがれる。でも自分だとやっぱり歌詞として成立させたいと思うからなかなか手が出ないです。いい本です。