岡本太郎という思想

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  • 講談社 (2010年11月26日発売)
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5

岡本太郎は、絵画、彫刻、書、陶芸、写真、建築、などさまざまな分野の作品を残している。その中でも「今日の芸術」を読めば、その言葉の威力が素晴らしい。私にとって、岡本太郎の放つ言葉は絵よりも刺激的だ。言葉自体に毒がひそんでいる。言葉に対して、実に真摯な人だ。そして、自分の目指すものを言葉で表現しようと試みている。
民俗学者の赤坂憲雄が書いた本書を読んで、やっと岡本太郎の闘っていることの中味が理解できた。
どうも岡本太郎の言葉の装飾にまどわされていたような気もする。『芸術は爆発だ』と言っている岡本太郎の断片しかみることができていなかった。岡本太郎を日本人としての思想家とみることで、はじめてその思想のあり方がみえる。岡本太郎は、描き、書き、考え、そして問題を追いつめる。作ると考えるとは矛盾の中にある。眼からそれをうけとり、言葉にし、絵にする。その思索の中で、「自分の存在」をたしかめていた。中心的には日本人として、日本と世界を明らかにしようとしていた。そこに、縄文があり、沖縄があり、日本列島があった。
本書は、引用がたくさんあり、そのことが、岡本太郎の思索の深さを丁寧に説明する。また、様々な角度を変えて、それを論じる。そのことで、岡本太郎が浮き彫りになり、岡本太郎を裸にする。
岡本太郎のマニュフェスト、「今日の芸術は、うまくあってはいけない。きれいであってはいけない。ここちよくあってはいけない」が、実に挑発的だった。そして、岡本太郎はいう「思索なきところに、これからの芸術はない」と。単に描く職人ではないのだ。
岡本太郎は言う「思う存分のものを作り、また同時に破壊する造形の行動と、熟考・判断の筋とは全く違った手ごたえだ。造形の場合、私にはコミュニケーションを拒否する意志が強烈にはたらく。むしろ人に解られて欲しくない。つまり歴史的・文化的・時間的な枠を超えて、無目的に膨張したい。絶対的な爆発でありたいという意志。ところが思索する場合は自分自身をまず他者としておく。己の存在を二分して、ぶつけあわせ、コントロールし、問題を展開していく」という。
絵を描くことと思索することは、全く違う矛盾の中に、自分を追い込む。
そして、岡本太郎は「芸術はけっきょく生活そのものの問題だ」という。芸術は生活から生まれると思っているのだ。「芸術は、ちょうど毎日のたべものと同じように、人間の生命にとって欠くことのできない、絶対的な必要物、むしろ生きることそのものだと思います」という。
岡本太郎は、18歳の多感な時に、フランスに行き、そして10年フランスで生活した。フランスで世界の芸術に会いながらも、戦争によって自らを日本という民族であることを理解し、日本に戻り、「芸術における民族性」を思索し、日本人として行動するのだ。
フランスで、芸術を開花させた藤田嗣治は、戦争で日本に戻ったが、けっきょくフランス人として死んだ。二人の画家の生き様は、日本という国の見つめ方でもある。
岡本太郎は、日本再発見ー芸術風土記を書き始め、日本列島を駆け巡るのだ。
岡本太郎には、世界性であるグローバリズムと日本というローカリズムがせめぎ合うことになる。
それが、岡本太郎の提案した対極主義という言葉に結実していく。常に対極にある。例えば、伝統と現代は対立するのか?それを「伝統はあくまでも形式ではなく、民族の生命力の発現として考えねばならない」といい、そして「伝統とは創造である」と見いだすのだ。この思索の系譜がなんとも素晴らしい。だからこそ、縄文土器に原始日本の芸術の息吹を感じ取れ、何もない空間を祀る沖縄に感動する。
フランスにおいて、ソルボンヌ大学で哲学・心理学・民俗学を学んだ。その時に原始芸術を深く学び、そしてピカソの絵にあう。また、ヘーゲルの『精神現象学』を学ぶ。その時の学んでいる人はフランスの哲学を形成した人が多い。ジョルジュバタイユ、ジャックラカン、メルロ=ポンティ、レイモンクノー、ロジェカイヨワ、サルトルなどと一緒に学んだ。岡本太郎は、テーゼ、アンチテーゼ、ジンテーゼという哲学概念に対して、岡本太郎は「弁証法は正・反・合の歴史的時間ではない。対極は瞬間だ。だから私は『合』を拒否する。現在の瞬間、瞬間に、血だらけになって対局の中に引き裂かれてあることが絶対なのだ」という。バタイユは「否定性は、極めて豊かで、同時に暴力的で、大きな表現力を持った表象である」という。ヘーゲルの弁証法をそれぞれ、自分のものとして取り込み、そして次のステップに進む。
岡本太郎が、日本と日本人にこだわりながら、原始人間の営みこそが、世界の共通の基礎になっているという世界性と民族性を捉える。さらに世界と日本、歴史と伝統、という対極に引き裂かれながら、言葉を生み出し、泥くさく芸術を生み出してきたことが、赤坂憲雄の深い考察によって、やっと一つの岡本太郎が浮かび上がってきた。とてもいい本だった。
#岡本太郎 #対極主義 #赤坂憲雄 #伝統

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: アート
感想投稿日 : 2022年1月2日
読了日 : 2022年1月2日
本棚登録日 : 2022年1月2日

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