一朝の夢 (文春文庫 か 54-1)

著者 :
  • 文藝春秋 (2011年10月7日発売)
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感想 : 18
4

変化アサガオのブームは、第1次が江戸時代の文化文政(1804-1830)。その時期に浮世絵や歌舞伎が始まる。第2次が江戸時代末期(嘉永安政期:1850頃)で、交配の技術を持っていた。第3次が明治中期と言われる。
本書は、第2次ブームの時で、主人公は北町奉行所・同心の中根興三郎。興三郎は6尺あまりの長身であるが武術はほとんどダメで、3男坊。学問の道に行くように言われて、アサガオに興味を持っていた。ところが、2人の兄が死んでしまい、やむなく同心になった。うだつのあがらない仕事をしていたが、アサガオの話になると夢中になる。幼馴染の里美が飯屋で働いているのを見たことで話が展開して行く。里恵が不幸な人生をおくっていて、借金十両あり、興三郎は、自分の育種したアサガオ「柳葉采咲撫子アサガオ」をあげることで、里恵は窮地を脱するのだった。
時代的な背景が、きちんと押さえられていて、植木職人、成田屋留次郎が関わってくる。成田屋留次郎は変化アサガオ図譜の『三都一朝』の著者であり、アサガオの品評会を主催していた。成田屋留次郎は、柿色のアサガオ団十郎の育成者として有名であった。
興三郎は、『あさかほ叢』の「大輪極黄采」に惹きつけられて、黄色いアサガオを育種したいと思っていた。アサガオの花いろは、青から赤そして白はあるが黄色の色素がない。
留次郎は「黄色は夢の花ですぜ。咲かせたいと思っても咲かせられる花じゃないんですよ。懸命に育てて、アサガオが認めてくれたら、その時初めて咲いてくれる。一生に一度だけ、アサガオがくれる褒美の花」という。留次郎も黄色のアサガオは咲かせたことがないが、『三都一朝』にはボタン咲きの黄色いアサガオが描かれている。
そのころのアサガオで有名な育種家は、杏葉館と言われ、五千石の旗本、元北町奉行所の鍋島直孝だった。その鍋島直孝に興三郎は呼ばれて、茶人宗観に引き合わされて、大輪のアサガオを作って欲しいと依頼される。実は、宗観は井伊直弼だった。興三郎は、井伊直弼の暗殺事件に巻き込まれて行くのだが、その事実は知らないままだった。興三郎は、大輪の黄色アサガオを作ることに専念する。
なかなかできなかったが、鍋島からもらった「州浜葉」と「とんぼ葉」を掛け合わせて、黄色大輪の『一期一会』作出するのだった。
物語は、井伊直弼の暗殺を巡っての事件に巻き込まれる中根與三郎であるが、アサガオの育種に専念する。アサガオ同心とも呼ばれている。
大輪黄色アサガオを題材にして、物語を構成するチカラは並々でない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 園芸/観葉/花
感想投稿日 : 2021年9月23日
読了日 : 2021年9月23日
本棚登録日 : 2021年9月23日

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