突然やって来た兵隊に村を滅ぼされたデオは、兄のイノセントと共に南アフリカを目指す。トラックの荷台に隠れ、国境の川を歩いて渡り、野獣のいる自然公園を駆け抜けて辿り着いた南アフリカで待っていたのは、外国人に対する憎しみの眼差しだった。
ここ数年、難民や移民をテーマにした物語をよく読んでいます。そこには想像を絶する状況が書かれています。死と隣り合わせの行程の先に辿り着いた新天地。そこでめでたしめでたしとはならないのですね。
ゼノフォビアという言葉があると知りました。「外国人憎悪」と訳された言葉が表わすものは悲壮なものです。南アフリカでは2008年に外国人への襲撃が行なわれました。そこで殺された人は60人以上だったそうです。
物語の中でもこの暴動が描かれ、そこでデオは兄のイノセントを喪ってしまいます。
イノセントは出生時の事故により「普通」ではなくなってしまう。デオはそんなイノセントを守るのが自分の役割だと思う。でもその関係は一方的なものではなく、デオもまたイノセントに守られていた。だからイノセントを喪ったデオは、今までのどんなことよりも深いキズを負ってしまう。
そんなデオを救ったのがサッカーだった。ホームレスによってチーム編成されたストリートサッカーのチームにデオは誘われる。
故郷を家族を居場所をそして兄を、何もかもを奪い取られたデオはサッカーによって、仲間を居場所をそして自分自身を得ることになる。
遠い国の出来事かもしれない。でも決して異世界の話ではなく地続きのこの世界で起こっている出来事なのです。翻訳小説はそんな遠い国の出来事を眼前に差し出してくれます。そのことによって、自分とは関係のない話ではないことを伝えてくれるのです。それが物語の持つ力なのでしょう。
- 感想投稿日 : 2019年9月17日
- 読了日 : 2019年9月17日
- 本棚登録日 : 2019年5月14日
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