NATIONAL GEOGRAPHIC (ナショナル ジオグラフィック) 日本版 2011年 12月号 [雑誌]

  • 日経ナショナルジオグラフィック社 (2011年11月30日発売)
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2011年12月号の目次
消えゆく王者 トラ

大型ネコ科動物の中で最も大きな体格を誇るトラも、野生の生息数は世界で約4000頭と、絶滅の瀬戸際にある。今、人間がなすべきこととは何か。アジアの保護区をめぐりながら、保護活動の実態を考察する。

文=キャロライン・アレキサンダー  写真=スティーブ・ウィンター

 トラの野生の生息数は世界で約4000頭と、絶滅の瀬戸際にある。人口増加に伴う生息地の減少、密猟、そして家畜を襲われた農家の報復と、生息数減少の原因は明らかながら、ここ数十年、状況は悪化するばかりだ。

 今、人間がなすべきこと、できることは何なのだろうか――。そんな中、アジアの保護区で、ようやく有効な保護対策の糸口がみつかった。果たして、トラは救えるのだろうか?
編集者から

 子どもに「動物園にいる動物は?」と尋ねれば、5人に1人は「トラ!」と答えるのではないでしょうか? そんな“当たり前”の動物が、次の世代では空想の動物の代名詞になってしまうかもしれません。実は、当初の邦題の副タイトルは「絶滅への最終章」でした。それほど危機感が強いということです。それでも、いくばくかの望みを込めたくて、最終的に今のタイトルになりました。ぜひ、そのあたりの気持ちをくみ取って読んでいただければ幸いです。(編集 H.O)

シリーズ 70億人の地球 都市という選択

増え続ける人口を支えながら、地球環境にかける負荷をできるだけ抑え、貧困の問題も解決する方法とは? 都市はその答えとなるだろうか。シリーズ特集「70億人の地球」の最終回。

文=ロバート・クンジグ

 19世紀末、人口過密と貧困の問題が深刻化していた英国ロンドン。「農村の活力と血と骨をひたすらむさぼり、肥大し続けるがん細胞」と形容されるほど、当時の都市化現象は問題視されていた。

 しかし、都市は本当に「がん細胞」なのだろうか。古代ローマの時代から、都市は人と人の豊かな出会いの場を提供し、経済や国の発展に大きく貢献してきた。また、現代のニューヨークなどでは、住民一人当たりのエネルギー消費量や温室効果ガスの排出量が国内の平均を下回っている。都市は多くの人々が効率的に生活できる空間でもある。

 果たして都市は人口問題の解決策となるのか。ロンドンやソウルの事例から都市の可能性を探る。シリーズ特集「70億人の地球」の最終回。
編集者から

 特集で大きく取り上げているのは、韓国の首都ソウル。本誌76~77ページ(ウェブのフォトギャラリーでは、4~7枚目に掲載されています)の「リビング拝見」では、ソウルの高層マンションに暮らす家族の居間を紹介しています。それぞれの個性が出ていて、おもしろいですよ。じっくり見てみてください。

 あと、本誌28~29ページ(ウェブでは未掲載です)の「世界をリードする都市はどこだ?」では、世界の都市の「影響力ランキング」を紹介しています。日本の都市は何位に入っているのか。特集と併せてお楽しみください。(編集T.F)

福島原発 避難の記憶

3月11日の大地震後、原発事故の知らせを受けて、やむなく故郷を後にした住民たち。その記憶をたどる。

文=ルシール・クラフト  写真=デビッド・グッテンフェルダー

 福島第一原発の事故で、すべての町民が避難生活を余儀なくされている福島県浪江町。3月11日の大地震と津波のあと、住民たちは原発の異変をテレビのニュースや防災無線で知って、とにかく原発から離れようと自宅を後にした。それ以来、わずかな一時帰宅の機会を除いて、家へ戻れない日々が続く。

 住民たちはどのような避難生活を送ってきたのか。人影の消えた町で、何が起きていたのか。2011年の終わりに、原発事故による避難の記憶をたどる。
編集者から

 B級ご当地グルメの祭典「第6回B-1グランプリ」で4位に入った「なみえ焼きそば」。この焼きそばの生まれた浪江町が、特集の本文の舞台です。写真では、警戒区域内の町の様子や、郡山市での避難生活を振り返ります。来年以降もずっと、この記憶を忘れないようにしなければと、編集をしていて改めて感じました。(編集T.F)

マゼラン雲と銀河のダンス

銀河系とその周りをめぐる二つのマゼラン雲が繰り広げる、壮大な“ダンス”の秘密に迫る。

 大小二つのマゼラン雲。南半球で夜空を仰げば、天の川のそばに淡く輝くその姿を見られるだろう。大航海時代に世界を一周した航海者にちなんで名づけられた二つの銀河は、私たちの銀河系(天の川銀河)の周囲をめぐる伴銀河と考えられてきた。

 マゼラン雲は多数の恒星で構成され、その内部では今も爆発的な勢いで、新たな星たちが誕生している。さまざまな点で、ほかの小さな伴銀河と同列には扱えない存在だ。近年では、ハッブル宇宙望遠鏡などによる観測結果から、二つのマゼラン雲が大きな楕円軌道を描き、ただいま地球に異例の接近中らしいとわかってきた。銀河系と、大小のマゼラン雲。三つの銀河のダイナミックなダンスが、今まさに始まろうとしている。
編集者から

 宇宙に浮かぶ真珠のネックレスとシャボン玉……そんな表現がぴたりとはまるのが、大マゼラン雲で起きた超新星爆発の残骸の写真。宝石のような輝きに目を奪われます。銀河系の周りを回っている伴銀河は、最大でも1000万個の星で構成されているのに対して、小マゼラン雲は30億個、大マゼラン雲は300億個。非常に明るいので、肉眼でもはっきり見えると言いますが、残念なことに日本からは見えません。南半球に行った時はぜひ、夜空を見上げてみてください。二つの“宝石箱”に出合えるかもしれません。(編集M.N)

英語を変えた奇跡の聖書

王の命により400年前に刊行され、以後の英語に大きな影響を及ぼした欽定訳聖書の誕生物語。

 世界のさまざまな言葉に訳され、広く読みつがれてきた聖書は、世界最大のベストセラーとも言われる。約2000年に及ぶその歴史の中、「英訳聖書の決定版」として誕生したのが、イングランド王、ジェームズ1世の命で生まれた欽定訳(きんていやく)聖書だ。

 1611年に刊行されたこの聖書は、その格調高い文体と豊かな表現で、英国の文化はもちろんのこと、英語という言語そのものにも多大な影響を及ぼした。現在でも英語でよく使われている言い回しの中にも、from time to time(ときどき)、the haves and have-nots(富める者も貧しき者も)、East of Eden(エデンの東)など、この聖書がきっかけで広まった表現が少なくないという。

 時の権力者の地位固めに貢献しつつ、個人に信仰の自由をもたらした欽定訳聖書の、誕生物語をお届けする。
編集者から

 今回、特集内に登場する聖書の引用部分を調べるため、東京・銀座にある日本聖書協会の聖書図書館に行ってきました。実際に手に取って調べ物に使ったのはごく普通の文語訳の聖書ですが、こじんまりとした館内の隅に置かれたガラスケースにはなんと! 1617年版の欽定訳聖書が展示されているではありませんか。欽定訳が刊行されたのが1611年ですから、そのわずか6年後の版です。大きさはちょっとしたボストンバッグくらいはあるでしょうか。今回の特集で欽定訳の歴史と影響力に触れたからこそですが、その重厚な存在感に、静かに興奮してしまいました。(編集M.N)

参考資料:『聖書 新共同訳 旧約聖書続編つき』1997年版 日本聖書協会

『舊新約聖書』(大形文語聖書)1982年版 日本聖書協会

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: NATIONAL GEOGRAPHIC 2011
感想投稿日 : 2014年11月25日
読了日 : 2011年12月25日
本棚登録日 : 2014年11月24日

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