蝶々の纏足・風葬の教室 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1997年2月28日発売)
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本棚登録 : 4761
感想 : 467
5

どこかで「同年齢の人たちとは違う」と感じている少女の、少女から大人へと変化していく思春期の物語。
側から見たら自意識過剰でナルシストで、内面の欲求が渦巻いている感じ。
多くの人が思春期に持っていたであろうその「人間の内側」を、色濃く描いていた。
私にとって、衝撃的で忘れられない一冊となった。
図書館でふらりとたまたま手に取った本だったが、改めて自分で購入したいと思う。

『蝶々の纏足』
読み終えてから、この物語をどう消化したらいいのか分からず、次を読み始めるまで時間がかかった。
途中、気分が悪くなるような場面も所々あったが、それを上回るくらい瞳美の思考に引きずり込まれていった。
えり子への黒い感情は、恋人・麦生の体に触れている時にだけ消えてくれる。
そうやって瞳美が麦生の体や雰囲気に惹かれていく様子は、えり子よりも早く大人になっていく自分にうっとりと酔っているように見えた。
自分のことを「早熟だ」と思っている瞳美を見ていると、逆に自意識にとらわれているように見えて、なんだか苦々しいような気持ちにもなる。
瞳美が抱いていたえり子に対する憎しみや憐れみを本人に明かした場面が、とても印象的だった。
人間が抱くぐちゃぐちゃな感情を目の当たりにしたような感じがして、心にざらざらとした傷痕をつけられたような心地だった。

『風葬の教室』
転校の多い杏は、吉沢先生のことが好きな恵美子の言葉で、転校先でいじめにあってしまう。
いじめの場面や、担任の先生までいじめに加担する姿はとても酷く、読んでいて胸が痛んだ。
しかし杏は「軽蔑」という方法で、心の中でクラスメイトを殺していく。
その姿は逞しくもあり、危うくもあった。
教室の中でただ一人違う空気を持っていたアッコくんの存在が気になった。
杏は小学生にしては大人びた思考をしており、文体の「です・ます」調によってそれをより強く感じた。
読んでいて気持ちの良くなる物語というわけではなかったが、文章に引き込まれる魅力があった。
衝撃的な作品だった。

『こぎつねこん』
幸福を感じる瞬間に恐怖が湧き出て、わあと叫びたくなったり涙が出たりする主人公の気持ちは、私にも分かる気がした。
もしこの幸せな時間が失われてしまったら、もし幸せな時間から自分がいなくなってしまったら……。
そう考えると、恐怖と不安に押し潰されそうになるのだと思う。
一度愛情に包まれることを知ってしまったら、そのあとにやって来る孤独はさらに大きく深くなってしまうのだろう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2021年1月16日
読了日 : 2021年1月16日
本棚登録日 : 2021年1月16日

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