本書の冒頭で著者は、「「愛と憎しみ」ほど、心理学的な問題はない。しかも「愛と憎しみ」ほど心理学で無視されているものはない」と述べて、実証的な心理学がいまだ扱うのに苦慮している「愛と憎しみ」の感情についての考察をおこなっています。恋愛、親子間の愛、友情、自己愛、嫉妬、そして愛国心に代表されるような、集団における愛と憎しみの感情がとりあげられています。
著者は、フロイトのエネルギー論的な発想を「仮説」として受け入れ、リビドーの昇華といった考えを借りて人間の愛と憎しみの感情を説明しています。しかし、それ以上に本書に特徴的なのは、狭い意味での心理学に限定することなく、スタンダールをはじめ広く人文科学上の遺産を取り入れつつ、愛と憎しみの感情という、きわめて人間的な現象に迫ろうとしているところではないかと思います。著者は『人間の心理を探究する』(岩波新書)のなかで、「私は心理学はユマニスト(人間論者)の伝統を受けつぐものと考えている」と述べていますが、そうした著者のスタンスが本書にも生きているように感じました。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
心理学・精神医学
- 感想投稿日 : 2015年1月8日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2015年1月8日
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