スクールアタック・シンドローム (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2007年6月28日発売)
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本棚登録 : 1296
感想 : 172
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短編三作品を収録しています。

「スクールアタック・シンドローム」は、30歳の父親と15歳の息子の物語。精神を病んでしまったことを理由に、ソファで日がな一日すごしている三田村は、家のなかに入ってきた知らない男と乱闘になり、彼の耳をかみ切ってしまいます。その事件は、暴力の連鎖のなかの一コマを占めていたことが明かされます。一方、別居中の元妻の恭子から、息子の崇史が学校を襲撃する計画のノートを記していたことがわかります。三田村は、親として崇史との心のつながりを得ることができないものの、崇史の振る舞いもまた、暴力の連鎖の一コマであったことがわかり、親子のきずなとはべつの共感が生まれたことが示唆されます。

「我が家のトトロ」は、太陽のように輝く美しい毛並みをしている猫のレスカと、家族の物語です。脳の研究者にならなければならないという天啓を受けて、勤めていた広告代理店を辞め、受験勉強をつづけている慎平は、娘の千秋が、トトロのように大きくなったレスカに乗って、空の旅をたのしんだという話を聞きます。さらに妻のりえも、千秋の「トトロごっこ」をいっしょにたのしんでいるようすで、慎平は自分たちが希望をもっている「ふり」をしながら生きていることに思いをめぐらせます。

「ソマリア、サッチ・ア・スウィートハート」は、家族やクラスメイトたちの暴力を一身に受けつづけている杣里亜という少女をめぐる物語。徳永と交際している智春は、世界のゴミをゴミ箱に入れるように、杣里亜に暴力を振るい彼女を殺害しますが、死んだはずの杣里亜はなぜか蘇生して、徳永の前にすがたを現わします。

「スクールアタック」と「ソマリア」は、著者らしいテイストの作品です。「トトロ」は、伊坂幸太郎を思わせる内容で、著者はこういう作品も書けるのかと、すこし意外に感じました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本の小説・エッセイ
感想投稿日 : 2023年8月13日
読了日 : -
本棚登録日 : 2023年8月13日

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