2014年から50回にわたってPR誌『ちくま』(筑摩書房)に連載された著者の記事を、テーマ別に編成して収録している本です。そのときどきの世の中をにぎわしている出来事について、著者がみずからの感想をつづっています。
『「わからない」という方法』(2001年、集英社新書)以降の著者の本には、啓蒙的な性格が強く出ているように感じています。世界は無限に複雑な襞をもっており、その細部へとどんどん入り込んでいくことで真理に近づいていくというのが、元来の著者の議論のスタイルでした。その後、著者はそうしたみずからの思索のスタイルを、「「わからない」という方法」として、ハウツーものならざるハウツーものとでも呼べるようなしかたで提示するようになる画期をかたちづくっているのが、『「わからない」という方法』だったというのがわたくしの理解です。
しかし本書では、著者の議論が「わかってしまっている」立場に著しく接近しているような印象を受けます。たしかに著者らしい視点の鋭さが随所に示されてはいるものの、すこし斜に構えた世間の見方という、ありがちな議論に堕してしまっているのではないかと思えるところも見受けられました。正直に言って、著者のエッセイのなかでは精彩を欠く印象がいなめないように思います。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
日本の小説・エッセイ
- 感想投稿日 : 2020年7月2日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2020年7月2日
みんなの感想をみる