社会派のミステリ作家として知られる松本清張ですが、本書は二・二六事件を中心とする『昭和史発掘』と、占領期の歴史の謎に迫った『日本の黒い霧』の、清張の2つのノンフィクション作品の意義を論じた本です。
『昭和史発掘』については、昭和前期の軍事的テーマと非軍事的テーマを密接につながったものとして扱うとともに、マルクス主義的な枠組みを前提とすることなく、どこまでも実証的な方法で史実に迫ったものとして、高い評価が与えられています。
一方、『日本の黒い霧』については、清張の勇み足が散見されることを指摘しつつも、いわゆる陰謀史観とは一線を画して、占領期の闇をどこまでも追及しようとした清張の、執念ともいうべき強い意志を見ようとしています。
清張と同じく人気作家だった司馬遼太郎は、「司馬史観」と呼ばれるような独自の歴史観がありますが、本書を読んでも清張独自の歴史観というものはあまり見えてこないように感じました。「底辺からの視点」といった表現もなされていますが、それが清張の実証的な手法と具体的にはどのように関係しているのかというところを、もう少し詳しく知りたかったように思います。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
文学研究・批評
- 感想投稿日 : 2014年7月22日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2014年7月22日
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