日本のデザイン――美意識がつくる未来 (岩波新書)

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  • 岩波書店 (2011年10月21日発売)
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世界はデザインで溢れている。紙が四角いのもボールが丸いのもデザインだ。四角いから省スペースにたくさん書けるし、丸いから転がっていく。デザインは人の行為の本質に寄り添う必要があるが、日本の生活に根付いたデザインを探っていく。

ダイハツの「タント」や日産の「キューブ」は、ヨーロッパの車と違い、四角いデザインだ。欧州ルーツの車は、空気抵抗を軽減するため、四方のウインドウは斜めに傾いている。したがって、タントやキューブは、遅そうに見える。しかし、空力特性を捨てることにより居住性が優先され、構造が安定するので前後のドアの間にある側面の支柱も不要になった。

現在、「シンプル」という言葉は、良い意味として捉えられているが、その概念が生まれたのは150年ほど前のことだという。シンプルを意識するためには、それとは逆の複雑さが存在しなければならない。昔から、物には権力の象徴という側面がある。椅子や青銅器、建築物にしても、所有者の権力や財力を示すために、きらびやかで複雑なデザインになっていった。しかし、近代社会の到来によって、価値の基準は、人が自由に生きることを基本に再編され、国は人々が生き生きと暮らすための仕組みを支えるサービスの一環となった。これによって、本来の機能を最短距離で発揮させようとする合理主義的な考え方が主流となり、デザインもシンプルなものが好まれるようになった。
日本の室町時代の書院造は、時代を先駆けてシンプルさを追求していたように映るが、筆者によれば、それはシンプルさとは違う「エンプティネス」(=空っぽ)だという。何もないことによって豊かな想像力が喚起される。そういう美しさだ。

他方で、現代の日本の家庭を見ると、(ボクも含め)ごちゃごちゃと物に溢れている家も多い。ものが少ないということは、それだけで美しい。もったいない精神を発揮するのではなく、エンプティネスを重視するのも良いかもしれない。

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感想投稿日 : 2021年4月4日
読了日 : 2021年4月4日
本棚登録日 : 2021年4月4日

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