それからはス-プのことばかり考えて暮らした (中公文庫 よ 39-1)

著者 :
  • 中央公論新社 (2009年9月25日発売)
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本棚登録 : 8314
感想 : 805
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ブクログ仲間さんたちにものすごく愛されていて、気になってしょうがないのに
図書館には例のごとく置いてなくて、古書店でも見かけたためしがなく
それほど「この本は私の宝物!」率が高いのだなぁ、と予想はしていましたが。。。

ほんとうに、巡り会えてよかった♪としみじみ思える本でした。

隣町の「月舟シネマ」に通い詰めるオーリィ君ではないけれど、
ゴトンゴトンとのんびり走る二両編成のかわいい路面電車も
アパートの窓から見える教会の白い十字架も
ガラスの向こうで流れるような手順で作られる、トロワのサンドイッチも
野球帽をかぶった少年となって口笛をふきながら銀幕を横切るあおいさんも
ぐつぐつ音をたてる鍋から、温かい湯気をたてて器に注がれるスープも

小さな映画館のスクリーンに映し出されるセピアがかった映像のように
温かく、柔らかく、目の前に浮かび上がるのです。

ハラハラドキドキするような事件は何ひとつ起こらないけれど
憧れ続けた銀幕の中の少女が、時をこえておばあさんになって現れても
変わることのない崇拝を胸に、シャツもジーンズもスニーカーも新調して
彼女を訪問するオーリィ君のように

スープの冷めない距離にいる(あるいは、いてほしい)誰かをいつも心に描きながら、
ささやかな日々の暮らしを大切に生きたいと思わせてくれる、素敵な物語です。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: や行の作家
感想投稿日 : 2012年8月22日
読了日 : 2012年8月21日
本棚登録日 : 2012年8月22日

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コメント 4件

takanatsuさんのコメント
2012/08/23

まろんさん、こんにちは。
私もこの本は宝物にしています♪
「温かく、柔らかく、目の前に浮かび上がるのです。」
とても分かります!
頭だけじゃなく自分毎全部、物語の世界の中に連れて行かれたような感覚でした。
なんでこんなに素敵なのか、なんでこんなに好きなのか…と真剣に考え込んでしまうほど大好きな作品です。

まろんさんのコメント
2012/08/23

takanatsuさんも宝物にしてらしたんですね♪
ほんとに雰囲気のある、素敵な本でした。

ちょっと巻き舌で、「オーリィ君」と
お洒落で素敵なおばあさん女優さんたちが呼びかけるのを
ぜひ本当にスクリーンで観てみたいと思ってしまったりして。
吉田篤弘さんは初めて読んだので、
これから追いかけていきたい作家さんになりました(*^_^*)

永遠ニ馨ルさんのコメント
2012/08/23

まろんさん、こんにちは。
この本、私も宝物にしていますよー♪

まろんさんのレビューを拝見し、
「そうそう、そうなんだよね!」と頷くことばかり。
再読したくなっちゃいました♪
吉田さんの紡ぐ言葉って、特別な表現はひとつもないのに胸に沁みこんできちゃうんですよね。

ところで吉田篤弘さん、初めて読まれたのですね!
この作品を気に入られたのなら、
「つむじ風食堂の夜」もぜひ読んでいただきたいです(*´▽`*)b

まろんさんのコメント
2012/08/24

おお!永遠ニ馨ルさんも、この本を宝物に!
ナカマナカマ゚.+:。(ノ^∇^)ノ゚.+:。

そうそう、飾り気のない言葉で書かれているのに
風景にも、会話にも温かさが溢れていて、
とても穏やかで懐かしい気持ちになりました♪

この本は図書館になかったのに、
なぜか「つむじ風食堂の夜」は置いてあったので(ばんざ~い♪)、
早速予約入れてみます!
教えていただいて、ありがとうございます(*^_^*)

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