虐待する者=強者、虐待される者=弱者という図式を
かるがると飛び越えてみせた、瀬尾さんの名作です。
普段は優しすぎるほどの好青年なのに、
ふとしたきっかけで豹変する義父、優の虐待を受ける隼太。
でも、目を覆いたくなるような暴力がひとたび止むと、
自己嫌悪に陥って謝り続ける優に、隼太は
「殴るだけ殴って、自分の都合で出て行くとか、最低だよ。
そんなこと僕は絶対に許さない」と言い放ち、完全に優位に立っている。
昏倒するほどの暴力よりも隼太が怖れるものはただひとつ、
ひとりっきりで過ごす夜の闇。
「初めて自分以外の誰かが息づく家の中で過ごす夜」を
連れてきてくれた優を手放さないために、虐待から立ち直らせる術を
あらゆる方向にアンテナを張って模索する隼太。
ふたり頭を並べて読む心理学の本や絵本、
ふたりで毎日あれこれ会話しながら書く「虐待日記」、
ふたりで仲良く作る、イライラ予防のカルシウム補給用ひじきの煮物。
誰かに切実に必要とされている実感がどうしても持てない優と
「女手ひとつ」の言葉に縛られ、学校でも母親にも弱音を吐けない隼太が
不思議な明るさの中で手を取り合って虐待を乗り越え、
心をより深く通わせていく過程に心打たれます。
事態が好転し始めたところで、
知人すら察していたほどの虐待に全く気付かず、
見たいものしか見ようとしない母親に
ふたりがいとも簡単に引き裂かれるシーンには賛否両論あるだろうけど、
ずっと隼太にリードされるがままだった優が
初めて自ら積極的に立ち直るためのアクションを起こし、
「女手ひとつで育てられているのに、感心な子」であり続けた隼太が
「終わってから割り込んできて、今更母親らしいこと言うなって」と
幼子のように泣き叫んだ挙句に選んだ「いったんちゃんと終わらせよう」は、
決して悲しい結末ではないと信じたい。
だって、人生はまだまだ続いていくのです。
ひとりひとりが、誰かの明日を照らせるくらい、つよくなるまで。
- 感想投稿日 : 2012年5月28日
- 読了日 : 2012年5月27日
- 本棚登録日 : 2012年5月27日
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