僕の明日を照らして

著者 :
  • 筑摩書房 (2010年2月10日発売)
3.60
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本棚登録 : 1815
感想 : 322
5

虐待する者=強者、虐待される者=弱者という図式を
かるがると飛び越えてみせた、瀬尾さんの名作です。

普段は優しすぎるほどの好青年なのに、
ふとしたきっかけで豹変する義父、優の虐待を受ける隼太。

でも、目を覆いたくなるような暴力がひとたび止むと、
自己嫌悪に陥って謝り続ける優に、隼太は
「殴るだけ殴って、自分の都合で出て行くとか、最低だよ。
そんなこと僕は絶対に許さない」と言い放ち、完全に優位に立っている。

昏倒するほどの暴力よりも隼太が怖れるものはただひとつ、
ひとりっきりで過ごす夜の闇。

「初めて自分以外の誰かが息づく家の中で過ごす夜」を
連れてきてくれた優を手放さないために、虐待から立ち直らせる術を
あらゆる方向にアンテナを張って模索する隼太。

ふたり頭を並べて読む心理学の本や絵本、
ふたりで毎日あれこれ会話しながら書く「虐待日記」、
ふたりで仲良く作る、イライラ予防のカルシウム補給用ひじきの煮物。

誰かに切実に必要とされている実感がどうしても持てない優と
「女手ひとつ」の言葉に縛られ、学校でも母親にも弱音を吐けない隼太が
不思議な明るさの中で手を取り合って虐待を乗り越え、
心をより深く通わせていく過程に心打たれます。

事態が好転し始めたところで、
知人すら察していたほどの虐待に全く気付かず、
見たいものしか見ようとしない母親に
ふたりがいとも簡単に引き裂かれるシーンには賛否両論あるだろうけど、

ずっと隼太にリードされるがままだった優が
初めて自ら積極的に立ち直るためのアクションを起こし、
「女手ひとつで育てられているのに、感心な子」であり続けた隼太が
「終わってから割り込んできて、今更母親らしいこと言うなって」と
幼子のように泣き叫んだ挙句に選んだ「いったんちゃんと終わらせよう」は、
決して悲しい結末ではないと信じたい。

だって、人生はまだまだ続いていくのです。
ひとりひとりが、誰かの明日を照らせるくらい、つよくなるまで。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: さ行の作家
感想投稿日 : 2012年5月28日
読了日 : 2012年5月27日
本棚登録日 : 2012年5月27日

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コメント 4件

円軌道の外さんのコメント
2012/05/29


わぁ〜
瀬尾さんにしては
かなり重いテーマを扱ってるし、
当事者同士が二人して
虐待を乗り越えていく話って
なんか珍しい設定ですよね!

しかもまろんさんのレビューが
エモーショナルに胸に響いて、
なんか泣きそうになっちゃったし(T_T)


自分も親に捨てられて
施設に入るまでは
親戚中をたらい回しにされたので、
大人たちから
理不尽な暴力を日常的に受けてました。
幼い弟を守るために
必死で堪えてたけど、
とにかく1日でも早く大人になりたかったんですよね。

殴られることに慣れて
暴力に屈する
自分が悔しかったし、

無闇に殴られたりしない
何かしらの力が欲しかったのかな。


まぁその経験があるから
ボクサーという職業を選んだし、
今があるんですけどね(笑)


もう一度過去の自分と向き合うためにも、
この作品は読んでみたいです(^_^)


まろんさんのコメント
2012/05/30

そんな過去があったからこそ、
円軌道の外さんは、
「円軌道の外」に飛び出す勇気を自らに課して
今みたいな素敵な大人になられたんですね!
守り続けてきた弟さんにとっては、
きっとヒーローみたいな存在ですね!!

いつもの瀬尾さん作品とは
ちょっとだけ毛色が違うかもしれないけど、
かなり激しい虐待を扱っていながら
根底にはやっぱり瀬尾さんらしい温かさがあってとても好きな作品になりました(*^_^*)

お時間があったら、ぜひぜひ♪

ねこにごはんさんのコメント
2013/01/18

お邪魔します。私、この作品★2つだったんです。気を悪くされたらごめんなさい。
でもまろんさんのレビューを読んで
そうか!そういう捉え方もあるんだなって思いました。
一つの作品にもいろんな方の受け取り方があって興味深いです。

まろんさんのコメント
2013/01/19

hitujiさん☆

いえいえ、気を悪くするなんて、とんでもない!
人によっていろんな読み方ができることが読書の奥深さだと思うので
違う読み方をしました、と、わざわざコメントをくださったこと、本当にうれしいです♪
この本は、瀬尾さんの数ある作品の中でも、かなり異色の存在ですものね。

私は好きな作家さんとなると、ついつい評価が甘めになってしまいがちなので
他の作品も、またぜひ感想を聞かせてください(*^_^*)

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