図書館の新刊コーナーにならぶ本の中で、ひときわオーラを発していた本。「みて、みて~~」と本に呼ばれているようで、吸い寄せられるように手にとった瞬間、これは素晴らしい! まずもって出久根さんの可愛らしい挿画を使った装丁といい、表紙裏といい、目次にはじまり大小の素敵な挿画が満載なのですよ。もちろんエルベンの蒐集した民話も面白い。まるで美しいスイーツを目で存分に味わいながら、読んで美味しく食べて、あぁ~お腹いっぱい幸せな気分といったところ(^^♪
カレル・ヤロミール・エルベン(1811~1870)は、(現在の)チェコの詩人、作家、民俗学者で「チェコのグリム」と呼ばれているそうです。ある国の民話を蒐集した本はよくあるのですが、私が目を奪われたのは、この本は民話だけではなく、バラッド(韻文の物語詩)、民謡、ことわざ、なぞなぞといった、人々の生活の営みが目に映るような多彩な民衆芸術を掲載していること、さらにチェコ語と同言語グループのスラブ語圏のロシア、スロヴェニア、ブルガリアなどの作品もあることで一気に空間の広がりを感じます。考えてみれば、長年営んできた人々の生活、慣習、歴史や文化は、ときに紛争も相俟って無理やり引いた国境のように線引きして腑分けすることなんてできないですものね。ゲルマン文化とスラブ文化の交錯、詩人でありながら民俗学者の顔をもつエルベンの視線にうなってしまいました。
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ネタばれにならないように、いくつか雰囲気を……、
「金色の髪のお姫様」(チェコ)は、生き物たちの言葉がわかる王さまと召使イジーク。金色の髪の娘を花嫁にするため探すよう王命をうけたイジークは、旅の途中でアリやカラスたちを助けながら、とある国に辿りつきます。その国の王は娘を嫁す条件として、イジークに3つの難題を出します……さながら女神ヘラから難題をだされたヘラクレスのようですが、はたしてどうなる?
「物知りじいやの三本の金色の髪」(チェコ)は、ある日、道に迷った王は炭焼職人の家に泊まることに。その夜、職人に男の子が誕生し、3人の妖婆が男の子の運命を口々に語ります。男の子は、今夜授かる王女と結婚する運命であることを漏れ聞いた王は、怒って男の子を川に捨てるのですが……運命の3女神なんてギリシャ神話のよう、オイディプスのような苦難を背負った幼子の運命は?
グリムの「カエルの王子さま」ならぬ「カエルの王女さま」(ロシア)には、びっくり仰天ですし、本のタイトル「命の水」は、物語も挿画も白眉でじつに美しい。
人間が動物や木に次々と変化していく変身譚といい、ギリシャ・ローマ神話、北欧神話、ケルト神話、グリム童話などの民話が融合して、きっと読む人それぞれがどこかで聞いたような~と思えるわくわくする本。子どもも大人も十分に楽しめる豪華本です♪
- 感想投稿日 : 2018年1月17日
- 本棚登録日 : 2018年1月7日
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