噛みあわない会話と、ある過去について

著者 :
  • 講談社 (2018年6月14日発売)
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本棚登録 : 3787
感想 : 543
3

読む前から、「怖い」というレビューを目にしていたので、警戒していたのだけれど、本当に怖かった・・・。

4つのお話が収録されているので、以下、それぞれの感想を。

ナベちゃんのヨメ:これは、怖いなというより、いやー、すごいなーと思った。何がすごいって辻村さんの人間(関係)観察力。観察しているのか、自分の内側から出てくるのか知らないけど、参りました、と思う。あるあるなんです!ナベちゃんと女子たちの関係って。悪気なくそうなっちゃう関係ってあるある。悪気が全面に出てはないけど、女子たちみんなナベちゃんを下に見てた。誰もナベちゃんを自分の一番にはしなかった。うまいな~、この辺の微妙な関係を文章に、お話にするなんて。ナベちゃんのヨメ、「怖っ、大丈夫かね、この人」と思うけど、二人の関係を周りがどうこう言うのもおかしなもので。自分に害がないなら、そう、ただナベちゃんという都合のよかった男友達を女子たちみんなが失っただけ。

パっとしない子:これは怖かった。もちろんホラーとかサスペンスとかと違った意味で。人間の、なんというか、心の奥底の人を憎む気持ちの引きずり方、執着の仕方が怖かった。佑の主張を読んでいるときは、「そりゃ、先生、いかんわ」と思うけど、先生の心情を読むと「確かに、そんなに悪いことしてないよね」と思ったり。どっちもわかるような、でもどっちの主張にも違和感があるようなスッキリしないまま読み続けた。確かに、若かりし頃の佐藤先生の無自覚の態度、言葉の刃って、酷い。先生がそんなだったというのは、敏感な子、繊細な子には辛い。それでも先生だって人間なんだから、生徒みんなにいつも平等な態度、ともいかない。「繊細すぎてついていけない」という本音にも頷いてしまう。でも、教師だからこそ、そこを汲み取ってあげて欲しいとも思う。佑と先生の主張や記憶は、まさに嚙み合わない。私はやはり最終的に佑が怖い、と思った。昔を引きずり、自分の記憶が全て正しいと思い込み、もしかしたら相手はこうだったんじゃ、みたいな譲歩もいっさいなく、自分の言いたいことだけ言って、それこそ、言葉の刃でガンガン切り込んで、この憎しみに異様に執着しているように感じられて、怖かった。自分だけスッキリした気持ちで帰っていったかと思うと、モヤモヤした。うーん、仕返しとはいえ、こんなにも人を傷つけていいのかなぁと思うと佑の人間性にもぞっとした。

ママ・はは:これは少し不思議なお話だった。母親の絶対的価値観を押し付けられた子どもは・・・。この母親、家庭は極端だとしても、家庭って、本当にそれぞれで、それこそ虐待ではなくても、親の支配力が強すぎると子どもはとても苦しいだろうと想像できる。自分の価値観を子どもに押し付けないようにしよう、と思った。

早穂とゆかり:2つ目のお話を読んでいるから、もう、嫌な予感満載で読み進めることになった。会ったらダメだって~と思いながら。やっぱり怖かった。有名人になった同級生の過去のイタイ姿をそのまま引きずって、何ならまだ自分が上と思っているような早穂もイタイと思ったけれど、ゆかりの仕打ちは早穂が「いじめ」と思ってもしょうがないようなやり方だった気がする。結局、過去にこだわり過ぎているのが怖い。2つ目のお話もそうだけど、自分の中でどうにかこうにか折り合いをつけられずにいると、こんなにも暴力的な会話で相手を傷つけるんだなーと。うぅ、怖かった。

久々に、「誰かとこの本について今すぐ話したい!」と思った本だった。というのも、こうやって長々書いた感想と全然違う感想意見も聞けそうだと思ったから。
辻村深月さんの力を十分に感じられる作品でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年10月31日
読了日 : 2022年10月31日
本棚登録日 : 2022年10月28日

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