書簡集というものは、エセーよりもその作者の生活を除くようで、私を後ろめたい気持ちにさせる。
特に恋文など、後世読まれることを想定していないだろうから
なおさらだろう。
文豪夏目漱石は、自信の手元に届いた手紙は全て処分していたらしい。しかし自分の出した手
紙の行方は、相手にしかわからない。それは恐怖であり、また自身の感情を相手にゆだねるという快感でもある。だから手紙はすべからく恋文である。
内田先生の恋文は、情熱的であり、しかし独りよがりに徹しない。「読み手」を意識しながら、美しい文章を紡ぐ。
先生の感情が揺れ動くのは、手紙の相手、清から結婚を躊躇する返事が来た時だけ。(そしてその清の手紙に何が書かれているか私たちは知りえない。)その時、私達は初めて先生の本心に触れる。
これは一方方向の書簡集であり、また美しい恋愛小説でもある。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
小説
- 感想投稿日 : 2012年8月26日
- 読了日 : 2012年8月26日
- 本棚登録日 : 2012年8月26日
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