(ホームズ)「あんまり忙しくて,食べることを忘れていたが,今晩はもっと忙しくなりそうだ。ところで,君に助太刀を頼みたいんだがね」
(ワトソン)「喜んで手つだうよ」
「法律にふれてもかい」
「ちっともかまわない」
「捕まるかもしれないよ」
「理由さえ悪くなきゃ,平気さ」
「理由は立派にたつんだ」
「そんなら何でも君のいうとおりにするよ」
「君ならきっと,やってくれると思ったんだ」
【『ボヘミアの醜聞』より】

ホームズとワトソン,互いに信用し合う二人の関係が微笑ましい。
本作に収録されている10の短編を通して,彼らの絆がより深まったことが読んで取れる。

天才とは孤独な存在なのだと思う。
あまりに先進的な自分の考え方は他人に理解されない。故にその行動も奇怪な目で見られる。
天才自身も他人からの理解を求めていない。自分のやりたいことをただやるだけ。
そんなとき,自分に興味を持って歩み寄ってくれる友人がいればどれだけ有難いことか。
理解はされなくとも,理解しようとしてくれるだけでどれだけ救われることか。
ワトソンの存在はホームズにとってかけがえのない友人であり,また読者とホームズを繋いでくれる架け橋なのである。

(ワトソン)「君は人類にとって恩人だよ」
ホームズは肩をすくめた。「うん,なアに,その,ほんの少しは役に立っているかねえ。(略)」
【『赤髪組合』より】

頭脳明晰,バイオリンはプロ並み,役者なみの変装術を得意とするホームズでも,この友人からの褒め言葉には照れを隠しきれない。

2017年9月17日

新入生歓迎行事として行われる”学園裁判ゲーム”。生徒会長を相手に,得体のしれない今年度の特究生を指名し,立証,そして論破する。辻褄さえ合えば何事も許される円卓上で繰り広げられる論理の攻防戦。先の見えない戦いはこの言葉から始まる。「汝は稀人なりや?」

日本に二つしかない探偵養成学校に入学した剣峰 成。そこで同級生・太刀杜からんと出会う。探偵士という職業が高い地位を持つというラノベ的な世界観の中にもしっかりとした本格ミステリの軸がある。

ユニークな名前にもちゃんと理由があって納得できた。

2017年9月14日

「正義の味方と正義,どう違うんでしょうか?」

そもそも正義とは何か。
正義の反対が必ずしも悪と言えるのだろうか。

探偵養成学校である鷹司高校で起きたカンニング事件。
調査により一度は収束したものの新たなる証拠が発見され,
事件は生徒会が仕切る”学園裁判”へ持ち込まれた。
弁護人に検事,裁判長に陪審員。
各立場での主張とそれぞれの持ちうる「正義」がぶつかり合う。

「私を敗北に追い込めるのは正義だよ」

自分の信じる正義を貫く。
そして正義そのものは自分すらも貫く刃にもなりかねない。

故に人は,正義の味方になりたがる。

2017年9月20日

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