いまこそ、希望を (光文社古典新訳文庫 Bサ 1-1)

  • 光文社 (2019年2月6日発売)
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本書は、かのサルトルが秘書のレヴィの問いに答えるかたちでまとめられた対談である。終盤、自分は長くてあと5年で死ぬだろうと語るサルトルだが、このわずか数カ月後に74歳で亡くなってしまう。身体の至るところにガタが来ていたという。日本ではサルトルの死とほぼ同時期に発表され、大きな反響を呼んだ。

ボーヴォワールはじめ、サルトルに近しい人たちは、この対談を読んだとき驚愕したという。そして強い怒りとともに、発表を控えるようにサルトルに進言した。その内容が、彼のこれまでの哲学からかけ離れたものだったからだ。彼らには、老いて思考力が衰えたサルトルを、40も年若のレヴィがうまく誘導して、自分に都合のいいように喋らせたと思えた。だが、サルトルは聞き入れず、発表にこだわった。

読んで感じるのは、レヴィの上から目線な態度と、詰問口調だ。かつてのサルトルなら、こうも言われたい放題にならなかったのではないかと思ってしまう。サルトルといえば、私の両親よりもさらに上の世代が同時代人となる。彼の実存主義は、現実世界に多大な影響を与えた。実は私も、若い頃にサルトルを読み耽った時期がある。「実存は本質に先立つ」や「アンガージュマン」という言葉は、若者の心をたぎらせるに十分な魅力があった。それだけにやはり本書を読むのは辛いものがあった。しかし、レヴィの詰問に押されがちながらも、ところどころにサルトルの強い意志と新しいサルトルが顔を見せる。訳者の海老坂氏の3本の解説がさすが秀逸。

行動する哲学者サルトルなら、ロシアの前身であるソ連に一時期接近していたサルトルが健在なら、今のウクライナ侵攻にどう発言するだろう。

……希望は、いつまでも負けてはいなかったんだね。……いつか勃発するかもしれない第三次世界大戦、地球というこの悲惨な集合体、こんなことで、絶望がわたしを誘惑しに戻ってくる。……だが、まさしくね、わたしはこれに抵抗し、自分ではわかっているのだが、希望のなかで死んでいくだろう。

対談の最後を希望という言葉で締めたサルトル。あと5年で何を書くつもりでいただろうか。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年4月9日
読了日 : 2022年4月9日
本棚登録日 : 2022年4月9日

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