須賀敦子の方へ (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2018年2月28日発売)
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感想 : 6
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神戸で育った幼少期から、東京の聖心女子学院へ通い、カトリック左派として目覚め、フランスへ留学するまでの若き須賀敦子の足跡を、生前交友があった松山が追っていく。


著者が実際に現地へ赴き、須賀を知る人びとから聞いた話は貴重。特に、須賀訳のギンズブルグ『ある家族の会話』や『ミラノ 霧の風景』を連載していた雑誌、「SPAZIO」の編集長・鈴木敏恵さんの「十年拘束してしまった」という言葉には胸をつかれた。学生運動の盛んな時期に、カトリック左派の学生たちも社会との関わり合い方を模索していたこと、それが欧州の動きとどう結びつき、須賀が渡欧する原動力となったかが知れたのもよかった。
しかし、それを須賀が書いたものと照らし合わせる段になると、松山が意図する方向へ無理やり導かれるような印象が強く、『乱歩と東京』の人とは思えないくらい例証を欠いている。
「女で建築をする人も珍しい」「まして須賀は女である。そうであれば、より情緒的な文体から逃れにくい」「男勝りの勇気をもて」とか、ここまで無邪気に書いているといっそ羨ましい。聖心を訪れた際の「オッサンは嬉しくなって彼女たちの一瞥を受けた」に至ってはただ気持ちが悪いです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ノンフィクション
感想投稿日 : 2020年5月23日
読了日 : 2020年5月11日
本棚登録日 : 2020年5月23日

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