増補 日本美術を見る眼 東と西の出会い (岩波現代文庫 文芸 158)

著者 :
  • 岩波書店 (2009年12月16日発売)
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西洋美術史の大家である高階秀爾による秀逸な日本美術論である。西洋美術との対比において日本美術の特質を鮮やかに浮き彫りにしており、この点は他のレビュワーが詳しく紹介している通りだ。統一的な空間構成の不在、余計なものを切り捨てる「否定の美学」、美術作品と生活空間の連続性、式年遷宮に代表される「かた」の継承などなど、豊富かつ適切な題材をもとにシャープな議論を展開している。外国人に分かり易く日本美術を説明するにはどうすればいいかという著者年来の課題意識が結実した名著である。

だが本書の意義はそれにとどまらない。むしろ評者が感銘を受けたのは、「東と西の出会い」というサブタイトルに示された東西の美術様式の相互影響というテーマだ。画面構成の新しさ、デッザンの妙、色彩の輝きなど、浮世絵の斬新な造形的表現が印象派の画家達を熱狂させたのは周知のことだが、それは単に外から与えられた「範例」としてよりも、むしろ彼ら自身の内部にあったものを表現するための「触媒」としてであったと著者は言う。従ってそれは「影響」というより「出会い」であり、しかも「必然的」な出会いであったと。

「受け手の方にその準備がなければ、いかに新しいものがもたらされたとしても、それだけでは実を結ばない・・・遠近法や明暗法などによって支えられた現実再現の美学がなお確固たる権威を保っていたあいだは日本は所詮単なる異国であった。その西欧の美学そのものが大きく揺らぎ始めた時、はじめて日本美術は強い「影響力」を持つようになった。」

著者の主張は「ジャポニズム」が現代美術に与えた「影響」のみを過大視することの一面性をつくものだが、逆に言えば、単なるエキゾチズムではない、その普遍的価値を正当に位置づけたものとして高く評価できる。異文化の「影響」とは何か、その真の意味について考えさせられるとともに、海外から次々と新たな美術様式が流入し、それらを自己の内なる欲求に照らし、深い次元で消化し、血肉化することのないまま「様々なる意匠」が並存する日本の文化受容のあり方を反省させられる。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2023年12月30日
読了日 : 2017年1月2日
本棚登録日 : 2023年12月30日

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