石のささやき (文春文庫 ク 6-16)

  • 文藝春秋 (2007年9月4日発売)
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本棚登録 : 121
感想 : 18

 …姉が壊れ始めたのは、幼い息子をなくしてからだった…。

 「緋色の記憶」「夜の記憶」のトマス・H・クックの描く家族の愛憎。

 時間軸的には、既に物語りは終っている。
 弟デイビットが、刑事ピートリーに何が起こったのか話しているシーンと、デイビットの語る過去が交錯している。
 この辺の構成は、相変わらず上手い。
 クックは、構成で読ませる作家だよな、と再確認。
 一体何が起こったのか、よくわからないもどかしさ焦燥が、ページを繰る手を休ませてくれない。職人です。
 
 二人の姉弟は、精神を病んだ父によって育てられたのだけど、この家族背景が決して抜け出せない底なし沼のようで怖い。語っているデイビットが、淡々としているので、怖さが倍増する。
 でも、子供を捨てたり殺したりする親はいるけど、親を捨てる子供はほとんどいないんだよね。
 姉弟の「いつか父のようになってしまうのではないか」という恐怖にかんじがらめになってしまっている様は、悲しい。
 「家族は愛憎を煮詰める大鍋」といったのは、ジョナサン・ケラーマンだ。
 父が、自分の病に向き合い、姉弟を自分の元から手放していたら、この悲劇は回避できたのかもしれない。切ない。本当に切ない。

 姉に危険なまでにひかれていく娘(姪)の父への反発や、それに対する不安。そして、姉の息子の死への疑問など、語るべきものは沢山ある。
 けれど、本は閉じられた。
 読み終わって、ふいに強くそう思った。
 「本は閉じられた」のだと。

 失うということは、このように「無」なのだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 翻訳作者名 カ~コ
感想投稿日 : 2010年6月16日
読了日 : 2010年6月16日
本棚登録日 : 2007年10月16日

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