劇場としての書店

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  • 新評論 (2002年7月1日発売)
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感想 : 13

なるほど劇場での役者と観客の関係は、書店と読者(客)との関係そのものである。演劇は観客を前提にして行われるのと同様に、書店の棚づくりも購買客を前提としたものであるからだ。観客としての購買客なしに書店は生きられない。客の存在が書店のありように決定的に影響を与えているのは、書店では「客」が「主人公」となるからだ。この舞台との決定的な違いは、書店では客席と舞台を仕切る「壁」は存在せず、客が「舞台」に既に、そして常に上がり込んでいるという構造に由来している。

僕たちが書店に行くのはなぜか。ネット書店を利用しながらも書店通いをやめないのはなぜか、それは僕たちが「誘惑される」ことを望んでいるからだという。たとえ一冊目は目的の本を買うとしても、二冊目以降は「出会い」をきっかけにした衝動的な買い物になるのが普通だから。書店はそんな出会いの場である。また、ネットでの本の購入は、あらかじめ決まったやり方でしか本の情報や購買にたどり着けない。(キーワードを打ち込み、リンクをたどるという行為も象徴的な気がする。)もちろんそれゆえの確実性が生み出す必然があるわけだが、その必然はある意味閉鎖性といえるわけだ。けれども、書店の現場を彷徨いながら果たした奇跡の出会いが、趣味のきっかけを作り出したり、新たなアイディアをインスパイアしたり、大げさに言えば人生を変える本になることだってある。そんな本というメディアのもつ性質を、筆者は「本というパッケージ商品が持つ逆説的な開放性」と呼んでいる。いわゆるネットの時代にあっても本との出会い(偶然)を求めて僕たちは今日も書店を覗くのだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2009年10月31日
読了日 : 2009年10月30日
本棚登録日 : 2009年10月30日

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