橋を渡る

著者 :
  • 文藝春秋 (2016年3月19日発売)
3.17
  • (14)
  • (111)
  • (189)
  • (49)
  • (13)
本棚登録 : 977
感想 : 159
4

 著者の作品は2作目、なのに「あぁ、あの…」と思ったのは去年映画『怒り』を観たからだな。原作者が著者だ。本作のヒトヒネリした作風が『怒り』と似ている気もする。『怒り』は無関係の男性3人がひとつの殺人事件を通じて繋がり合う(かのように)描かれる手法はなかなか斬新だった。
 本作も、まったく縁もゆかりもない3人の主人公による別々のストーリーが春、夏、秋、と題して順に語られる。なかなか力量のある作家さんなのだろう、それぞれに読み応えがあり、中編の小説として成立している。2014年という同じ時代をそれぞれの場所で暮らし、価値観の揺らぐ現代において、何が正しくて、何が正しくなく、そして自分は何を選択して生きて行くかを、息苦しくなるほど濃密な空気感の中で描き切っている。この閉塞感は、まさに”今だな”と思わされる。つい3年ほど前の、記憶も生々しい実際に世間を騒がせた事件、ニュースが巧みに織り込まれている点も面白く読み進められる要因だ。

 全く関係はない3人とはいえ、前の章の登場人物が、次章の中になんらかの形で登場する手法は、最近読んだ中では、湊かなえの『山女日記』など、ありがちと言えばありがち。それはさほど特筆するところでもなく、むしろ、これが本書の読者を引き付ける舞台装置かと思うと、やや鼻白むくらいの小手先のテクニックだ。
 だが、さにあらず、本書にはもっと大仕掛けが隠されていた。

 これ以上は、さすがに書けないな。なかなか、驚かされたし、爽快だったよ。”あのページ”以降は、もうページを繰る手を止めること出来ずに一気に読み終えてしまった。

 ただ、評価は難しいなぁ。賛否が割れそうな作品だ。映画も小説も、ダイドンデンガエシはWelcomeなほうだけど、本作はクライマックス前の3つの章もそれなりに独立した物語として成り立っていて、それだけでも実に味わいがあった。
 それを最後の1章、そしてエピローグで伏線大回収を行うが、やや駆け足で、若干辻褄の合わないというか「なぜ?」が残る感が無きにしも非ず。
 いや、それでも、そのきっちりと閉じない部分、ホコロビのようなものが、なんとも現実っぽいというか、不思議な余韻も残してはいる。

 あらすじも、詳細な感想も、あえて本書に限っては避けるが、一読して損はない作品だということは言っておこう。 登場人物のひとりが言う、この言葉は現代に対する痛烈な警告だと思いながら読み切った。

『あの時に変えればよかったと誰でも思う。でも今変えようとはしない』

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2017年7月20日
読了日 : 2017年7月19日
本棚登録日 : 2017年7月18日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする