ポラーノの広場 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1995年1月30日発売)
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時さえが歩みを緩める深更の刻限。星明かりも届かぬ森の底。その男の跫音が聞きとれたその瞬間、つめくさは一斉に目を覚ましてあかりを灯し、柏の樹々は興奮に身をくねらせ、風はどうと大笑して、無機物たちは生命を謳歌する合唱を歌い始める。

■「いちょうの実」
母親(いちょうの木)から実たちがいっせいに落ちはじめる。実たちはみな期待と不安に包まれている。
「困ったわ、わたし、どうしても(おっかさんに貰った新しい外套が)ないわ。ほんとうにわたしどうしましょう。」「わたしと二人で行きましょうよ。わたしのを時々貸してあげるわ。凍えたら一緒に死にましょうよ。」
一陣の北風。子供たちは一斉に飛び降りる。「北風が笑って、『今年もこれでまずさよならさよならって云うわけだ。』と云いながらつめたいガラスのマントをひらめかして向こうへ行っていしまいました。」
■「ガドルフの百合」
嵐の夜、偶然見つけた空き家で野宿することになった孤独な旅人の心象風景。賢治にしては珍しく、結構激しい。
■「種山ヶ原」
牛を追って未踏の森に分け入る達二。賢治の森に対する愛と恐れが同時に伝わってくる。
■「タネリはたしかにいちにち噛んでいたようだった」
『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』より長いが、
『ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない』よりは短い。
略して「タネ噛ん」!
■「氷河鼠の毛皮」
タイトルはエラリー・クイーンっぽい。中身はヒッチコックっぽい。
■「ポラーノの広場」
”足の曲がった山猫の馬車別当” がこんなところにまた出てきた。
架空の広場”ポラーノの広場”に迷い込んだ異世界譚かと思っていたら、実在する広場をめぐる現実的なお話だった。
■「竜と詩人」
竜と詩人との対話。格調の高い文章で綴られるファンタジィー。テッド・チャンみたいだがそれより上。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本文学
感想投稿日 : 2019年12月7日
読了日 : 2019年12月6日
本棚登録日 : 2019年12月6日

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