奇貨 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2015年1月28日発売)
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本棚登録 : 219
感想 : 10
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45歳の私小説作家・本田(独身・男)と、以前勤めていた会社の後輩女性・七島35歳レズビアンの奇妙な同居生活。本田はノンケだし女性が大好きだけれど、ざっくりくくるなら草食系、最近風にいうなら「乙女男子」的な、ゲイでもオネエでもないのに女子への共感力がべらぼうに高く、女性に警戒心を抱かせないかわりにフェロモンも感じてもらえない男。対する七島は、いたって普通の常識的な女性で、人間的にもまとも、ただ、同性愛者。なぜかパートナーに恵まれない。

非常にベタに定義するなら「男女間に友情は成立するか」という古来から(?)議論され絶対の普遍的な結論は永遠に出ないだろうなとういう問題が主題だとは思う。そして本田と七島の関係性でいえばこれは成立している。でもそれってきっと「奇貨」なんですよね。

個人と個人の関係性は、「友人」「恋人」「家族」といった大雑把なカテゴリーだけでは括れない多様性があり、彼らの関係もその稀有な1例。最終的に二人は別居することになるのだけれど、後味は意外なくらいポジティブ。登場人物たちが個性的ながらも基本的には「大人」なせいでしょうね。

同時収録の中編「変態月」は1985年の作品。タイトルのインパクトが強烈ですが、中身は女子中高生の百合風味のいたって繊細な物語。中学生女子を高校生女子が殺した事件に動揺するバレー部女子たちの思春期の心理がみずみずしい。同性愛者ならずとも、男女とも同性に特別な愛着を感じたりスキンシップが嬉しかったりする特定の相手、時期というのはあると思う。その不安定な時期に歪んだ方向へ踏み外してしまうか、一過性と乗り切るか、やがて確信に変わるのかはそれぞれなだけで。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ:  >ま行
感想投稿日 : 2015年2月9日
読了日 : 2015年2月8日
本棚登録日 : 2015年2月5日

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