スティル・ライフ (中公文庫 い 3-3)

著者 :
  • 中央公論新社 (1991年12月10日発売)
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本棚登録 : 3927
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コロナのせいで心が荒れてきたので何か精神的に静まる本をと思い、30年ぶりくらいに再読。若い頃に読んでとてもとても感銘を受けたことだけは覚えていて具体的なあらすじはほぼ忘れていたのだけど、書き出しの「この世界がきみのために存在すると思ってはいけない。世界はきみを入れる容器ではない。」という一文で一気に時間が巻き戻った。

「大事なのは、」と語り手の「ぼく」は言う。「外の世界と、きみの中にある広い世界との間に連絡をつけること」「並び立つ二つの世界の呼応と調和をはかること」そのためにどうすればいいのか、方法としては「たとえば、星を見るとかして。」ああこうだった、こうだった、この文章が好きだった、と次々思い出す。

「ぼく」は染色工場のアルバイトで佐々井という年上の同僚と親しくなる。二人はとりとめのない星や世界のことなど語り合う。中盤で佐々井の過去が明かされ、ぼくにある仕事の依頼がされることで急に現実味を帯びてくるが、全体的には寓話めいている。80頁ほどの、短編といってもいいくらいの分量しかないのもいい。小説というよりは散文詩のようだ。

若い頃と同じ感受性の瑞々しさでは読めなくなっていたが(おばちゃんの感受性はもうカラカラだ)それでも懐かしさと相まってとても感銘を受けた。かつての自分は、定住する場所を持たない佐々井というキャラクターにスナフキン味を感じていたのかもしれない。

中編「ヤー・チャイカ」も収録。こちらは父子家庭の娘と父親それぞれの視点で、父親が知り合うロシア人とのエピソードを絡めて進む。娘の空想の世界での、恐竜ディプロドクスを飼っている話がとても好きだった。解説は須賀敦子。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ:  >あ~う
感想投稿日 : 2020年4月11日
読了日 : -
本棚登録日 : 2012年9月7日

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