双頭のバビロン〈下〉 (創元推理文庫)

著者 :
  • 東京創元社 (2015年6月21日発売)
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感想 : 18
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切り離された結合双生児のそれぞれの光と影が交差する壮大な物語、上下巻たっぷり皆川ワールド堪能。ゲオルク側のハリウッド内幕ネタが多かった前半(上巻)よりも、ある登場人物二人が一致して以降の後半(下巻)双子が入れ替わると思いきや再会にむけて物語が動きだし、ウィーンやハリウッド以上に退廃した魔都感の強い上海が舞台になってからが圧巻の面白さでした。冒頭の1929年の上海にこう繋がるのかというのも含めて、伏線や謎が次々解けてゆく気持ち良さ。しかし読者のスッキリ感とは裏腹に登場人物たちは追いつめられてゆく。

結局、あれだけ感応しあい記憶を共有し、お互いの存在にふりまわされた双子の当事者同士よりも、ユリアンにとってはアカの他人のツヴェンゲルとの絆のほうが強かったというのが、皮肉でもありロマンチックでもあり・・・。ゲオルクはゲオルクでユリアンとはまた違う意味で、エーゴンのことが必要だった。そういう意味では双子同志の葛藤や愛憎より、一種の三角関係の頂点にいたツヴェンゲルのほうが真の主役だったのかも。彼は本当に魅力的なキャラクターでした。

しかし個人的には実は結構ゲオルクが好きでした。双子の影のほうとして生きてきたユリアンは当然精神的に不安定なところがあり、嫉妬深く感情の暴走をコントロールできない危うい面が強い。一方ゲオルクは光として伸び伸び生きてきたとはいえ、ユリアンにとってのヴァルターやツヴェンゲルのような絶対的に信頼できる味方は存在せず、裕福とはいえ養子の身、家族からとくに愛されもせず放逐され、どん底からハリウッドの人気監督まで上り詰める。一見ユリアンより恵まれているように思われそうだけど、実はそうでもなく、成功したのは本人の実力と生命力の強さゆえ。その精神の健康さと逞しさがいい。二次元的にはユリアンやツヴェンゲルのような退廃的なキャラクターに人気が出るだろうけど、実在するならゲオルクのほうがモテるはず(笑)

実在といえばゲオルクの映画監督としてのキャリアは、実在の映画監督エーリヒ・フォン・シュトロハイムをモデルにしているそうです。ハリウッド部分は結構実在の人物(梅蘭芳、ポマーその他たくさん)や会社(パラマウントやウーファ)、映画が沢山登場するので、どのへんから創作(架空)なのか読んでいる間ずっと気になっていたので、あとがきでスッキリしました。このへんの映画事情にもっと詳しければ、さらに楽しめたのかも。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ:  ○皆川博子
感想投稿日 : 2015年6月24日
読了日 : 2015年6月24日
本棚登録日 : 2015年5月29日

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