もう鳴らない“ゴット・フォン” 後藤田正晴と十二人の総理たち (文春文庫 さ 22-14)

著者 :
  • 文藝春秋 (2008年3月7日発売)
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感想 : 15
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(ご存命だし失礼だろうけど)昔の人ってやっぱりパワーが違う。佐々さんや後藤田さんは東大行くほど頭がよかったから、頭脳もあるし、でもそれだけじゃなくって行動力が備わってるんだ。二人とも戦争を経験したし、佐々さんの場合は学生運動全盛期に東大に通っていてそこで巻き込まれたことも影響してるんだろうな。今ののほほんとした環境とは大違いで、食うか食われるかという状況で感覚が磨かれて、警察行った後もあさま山荘事件(佐々さんの著書を過去読了)みたいな、歴史に名を残すような凶悪事件も経験してるから。
だから今の人たちとはやっぱり違う。頭脳優先で、考えに考えを重ねて、でも煩雑な手続きや縦割り社会のせいで機動力が弱く、後手に回る。
後藤田さんと佐々さんのやり取りは、だから読んでいて気持ちいい。ゴット・フォンによる命をいやいやながら受けて、現場主義を貫く、機動性のある政治を進めてしまうのなんて、戦争なんておこらないよ、と間違った見解を抱いていている政治家に対し、独自の外交ルート(交友関係)を頼って、アメリカの動向を探る。つっついても出てこないような官僚組織の中でははあっぱれじゃない。縄張り意識が強い官僚社会の中で嫌われるって思ってても、型破りな方法を取るのは私益のためにやっているんじゃなくて後藤田さんの言葉を借りたとおり「国益」のためなんだから。
政治家ってこうあるべきじゃないのか、と思ってしまった。そんな一般人から見たらちっぽけな縄張り意識とか慣例とかを時には超えて、国の取るべき道を提示する。
後藤田さんが眼をかけていたらしい政治家が数人出てくるけれど、何よりも佐々さんを信頼していたに違いない。後藤田さんの名が冠されている本だ。後藤田さんの命令によって、佐々さんが実行したいろんな業績が詰まっている。それだけじゃなくて過去の上下関係、組織外でも続くその関係、そして友情まで感じ取れる、いい本だ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: Others
感想投稿日 : 2012年7月20日
読了日 : 2012年7月18日
本棚登録日 : 2012年7月18日

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