第三の敗戦

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  • 講談社 (2011年6月4日発売)
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先日起きた東日本大震災が日本にとっての敗戦とは思いたくありませんが、特に震災後の現政府の対応を見ていると、心配になってきます。

この本の著者である堺屋氏から見れば今回の敗戦は、幕末、太平洋戦争に次ぐ、第三の敗戦で20年間の下り坂の末に来たということです。

これから改革すれば日本は再び栄えることができるのでしょうか、数年前に読んだ彼の書いた予測小説(平成30年)を思い出しました。

たしか何もせずに平成30年を迎えてしまった日本に、織田信長のような世直しをする人が現れて大改革をするという話だったと思いますが、今の政治家や将来政治家になる人にも、日本が栄えるための方策を考えて実行に移してもらいたいものです。

以下は気になったポイントです。

・不都合なことに、日本の法規では復旧は国費の援助でできるが、旧施設より良い施設にするとなれば「新たな資産の取得」として予算査定を受ける必要がある(p17)

・2010年には公的資金不足が約40兆円、これに対して企業の資金余剰が約33.6兆円、家計貯蓄が11.5兆円なので、国債発行を国内で消化でき国債が低金利で収まっていた(p22)

・日本では関東と関西でサイクルの差があるので、東西間は100万キロワットしか移送できない、西日本で節電しても東京や東北の電力事情は改善しない、ピークは夏の数日、それも昼間の数時間(p27)

・徳川幕藩体制は、身分社会、鎖国経済、縮み文化の3つで形成されていた、それを支えた正義は「社会的安定」である(p37)

・徳川時代には都市域をでると車両の通行は禁止、大名行列にも車は描かれていない、荷物を運ぶのは人夫か馬背である、道路地盤が軟弱で轍が水たまりになるから(p38)

・日本の幕藩体制が崩壊したのは、武士の文化が信じられなくなったから(p44)

・軍隊であるための条件は、1)断然優越した兵器を保有し、組織的に運用可能、2)集団的軍事行動のできる組織と命令系統の常備、3)その集団ですべての行為ができる自己完結性をもつこと(p44)

・第一次長州戦争では、幕府を恐れた長州藩主が三人の家老を切腹させておさめたが、それを不満とした第二次長州戦争(2年後の1866)では長州藩の民兵に幕府の大軍が負けた(p46)

・幕末のころにイギリスが急いでいたのはインドの支配と中国長江地域の半植民地化であり、日本を領有するほどの意欲はなかった(p50)

・版籍奉還の意味は、武士身分の廃止(1591年の豊臣秀吉による身分に関する条規制定以来)であり、これにより封建的身分社会から近代的職能社会に転換した、武士以外のものを多数官軍に組み入れてしまった結果の「やむを得ない措置」であり、劇的場面が少ない(p55)

・明治10年には1石=5円70銭だった米が、13ンには12.2円になった、元禄時代には4石=1両、幕末には1石=1両であり、200円で50倍になった(p61)

・日本の歴史では、経済文化が下り坂に入ると早々に大災害に見舞われることが多い、1596年伏見大地震、明暦の大火(1657年)、富士山大噴火(1707)、浅間山大噴火(1770頃)、京都大地震(1830)、関東大震災(1923)など(p73)

・1940年までは日本の労働者横転率(同じ職種で転職)は世界一高かった、1企業に勤める平均期間は3年程度(p76)

・海軍艦艇や戦闘機の分野では優れた製品もあったが、使用者の専門軍人と製造工場の技師とのなれ合いで練り上げられた特殊品であり汎用品ではなかった(p82)

・日本の第二の敗戦の敗因は、軍官組織の硬直化、つまり高級軍人や官僚たちの組織と思考の硬直化と、地位の身分化にあった(p89)

・1944年の暮れころから大阪では軍人文化が信じられなくなっていた(p93)

・産業経済の東京1極集中は、経済や技術の流れで自然とできたものではなく、官僚主導によって圧力と費用をかけて強引に行われた、社長が移動するので社長室、次に調査部や資金部、海外事業部ができて最後に営業本部が移動(p131)

・イラク制裁の湾岸戦争において、軍隊を出さなかった日本は同盟国に名を連ねることができなかった、世界は「経済大国・軍事小国を目指す」日本の国家コンセプトの1つを拒否した(p142)

・規格大量生産には、1)巨額資金、2)大量に売れる市場、3)大勢の技術者が必要だが、コンピュータ装備の施設、ドル資金の海外垂れ流しにより、アジアの工業化が可能になった(p146)

・大正デモクラシーに似た動きとして、1996-2006年には、1)行政改革、2)規制緩和、3)グローバル化をした(p158)

・新しい街づくりとして、省エネルギーと地域コミュニティの強化を兼ねて「歩いて暮らせる街」を目指すべき(p207)

・農業はカロリー換算による自給率ではなく、「市場価格換算自給率」に変えるべき(p225)

2011/7/17作成

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2011年7月17日
読了日 : 2011年7月17日
本棚登録日 : 2011年7月17日

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