人間さまお断り 人工知能時代の経済と労働の手引き

  • 三省堂 (2016年8月11日発売)
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私がコンピュータに初めて出会ったのは、中学生の頃、親戚の家にあった、NECの8801シリーズでした。プログラムはテープからアップロード、できるのはゲームのみ。和文タイプライターがまだ存在していた高校生の時、その上位機種である、9801シリーズで「一太郎」に出合いました。ワープロを単なる「清書用ソフト」しか思っていなかった私に、大学時代の友達が、「ワープロは一度作った文書を、あとで呼び出したり、直したりすることができる優れもの」と言ってくれたのが、私とコンピュータとの関わりの始まりと言えると思います。

それ以降、ゲームセンターでお金を使わずに好きなだけできる「ゲーム(信長の野望)」にも熱中し、社会人になった頃には、表計算ソフトや描画ソフト、そしてそれらで作ったもの(図表)を文書に取り込むことができるようになり、少しずつコンピュータのすることが人間の手助けになるなと感じ始めました。それでもコンピュータは人間を支援する、時間を省くものと認識されて今に至っていると私は感じています。

しかしこの本では、今回ばかりは本物と言われる、人工知能が実用化され、人間のレベルを超えるようになり、遂にはコンピュータから人間は不要である、と見做される時代がやってくることを書いています。

インターネットも今まで何度となく似たようなシステムが提案されて消滅してきましたが、今では私達の生活になくてはならないものになっています。人工知能もいずれそのようになることでしょう。そのような時代になったとき、人間がどのような位置づけになっているのか、コンピュータから必要とされる人間とそうでない人間に類別されてしまっているのでしょうか、色々と考えさせられた本でした。

以下は気になったポイントです。

・2001年5月6日に、株価が9%も下落、それもほんの数分のうちに下落した。証券取引委員会が半年近くかかって原因をつきとめたが、株を売買するコンピュータプログラムが競合を起こし、収拾がつかなくなったから(p18)

・マルクスが予想していなかったのは、合成頭脳が登場すると、資本さえあれば人の頭脳も不要になるということ、金持ちと労働者との闘争が起きるのではなく、金持ちは殆ど人の労働力を不要とする(p22)

・あと10-20年もしたら、スマートフォンの処理能力は、原理的には人の脳と並ぶことになる(p40)

・真のブレークスルーが起こったのは、機械知覚の分野である。機械学習技術を応用し、またどんどん高度化・低価格化するカメラを組み合わせことによって、急激な性能向上が起こってきた(p50)

・資源は4種類ある、エネルギー・意識・理性・手段である、これらの資源は一か所に集まっている必要はない、だが実際には1か所に集まっているほうが便利(p53)

・未来は、人が思うよりもずっと過去に似た世界になる。人々の生活はずっと複雑になっているかもしれないが、見かけは今日よりずっと単純になる。目立たない地味な道具箱が、一台何役もこなし、見えない技術がそれをコントロールしている(p60)

・2010年、メキシコ湾でBPは爆発事故を起こし、大量の石油が流出し、海水と海岸が汚染された。連邦政府は、BPに対して、民事と刑事訴訟を起こした。結果、BPは40億ドル支払っている、巨額の損害賠償と民事罰の制裁金に加えて、40億ドルの罰金(p95)

・奴隷は所有物と見做されていたが、奴隷が犯罪を犯したときは例外なく、所有者でなくその奴隷が法的に有罪とされて、処罰の対象とされた。法的には所有物であるが、独自に意思決定をおこなう能力もある、とロボットの立場に通じるものがある(p102)

・アマゾンは同時にふたつの取引を行って、両方とも必ず利益が出るという方法であった。一つ目は顧客との取引、ある値段で本を売り、互いに合意できる期間内に届ける、二つ目は、イングラムとの取引で、本を購入して特定の目的地に配送してもらうという契約。アマゾンのほうが顧客より、より情報をつかんでいたので、顧客への売値を絶えず修正して常に一定の値幅を確保していた(p113)

・テクノロジーの進歩は、ゲームの規則を変えるもの。企業の再編成が可能になり、仕事のしかたが改良されるから(p151)

・最初は人間とほとんど同じやり方で仕事をこなすが、もうひとつの革新が起きれば、たんに人間から職が奪われるだけでなく、人間がしている種類の仕事じたいが消滅する(p154)

・ものの数秒で、見も知らぬからこそ偏りのない大勢の人々から、客観的で統計的に信頼できるフィードバックがえられる、投稿者はその服を買えば歩合をもらえる(クラウドソーシング)としたら、販売員の意見を聞く必要がどこにあるだろうか(p156)

・高速道路の自動運転トラック隊は、ほんの数インチの車間距離で隊伍を組んで、安全に進むことができるから、道路の混雑も減り、燃料も15%節約、1日24時間休憩なしで走れるので配送時間も短縮する。真っ暗闇でも停電中でも運転可能(p162)

・ビルバラ鉄鉱石採掘場では、大規模自動運転トラック隊が導入されている、2年間の試験運転が始まってから、自動トラックは、毎日24時間、およそ14.5万往復、4200万トン以上の鉱物を輸送、走行距離45万キロ、1500キロ離れたコントロールセンターから操作しているが、積み込み施設から積み下ろし場所までGPSで自動的に誘導されている(p163)

・機械の農場労働者は、人間の労働者より速く作業する必要はない、自動運転車と同じく暗闇でも運用可能(p165)

・労働機械が肉体労働者を不要にしてしまうように、これから起こる合成頭脳の波は、頭脳を使う職業の多くを一掃してしまうだろう。自動機械は、ブルーカラーもホワイトカラーも区別しない。合成頭脳はホワイトカラーの仕事を、労働機械はブルカラーの仕事を代替えする(p166、262)

・職業訓練について犯している間違いの1つは、生徒に何を教えるか、学校に決めさせている。2つめは、まず学校に行き、卒業してから就職することが前提になっている(p175)

・数十年後には自分の車を買おうと思う人はいなくなるだろう、今日だれも鉄道の専用客車を買おうと思わないように。必要になったら呼ぶだけで良い。タクシーよりもはるかに確実かつ迅速にくるだろう(p220)

・交通事故は90%減少するだろう、交通法の施行(道路上の警官)にかかる経費も節減できる、交通法廷の経費も節約、20-25年後には道路を走る車両の75%が自動運転だろう(p221)

・システムは次第に自律性を高め、人間の監視はいよいよ不要になっていき、なかには自分で自分の後継者を設計するシステムも現れるだろう(p234)

・合成頭脳は、人間が必要な間は人間と協力して働くだろう、しかし自分で自分を設計し、修理し、複製することができるようになる。そうなったら人間は放っておかれるだろう(p235)

・ふだんは気づかないが、人類が自分で自分を害しそうになると、それを防ぐために介入してくる。そして初めて人間は真実に気が付くのだ。飼っているのはどちらで、飼われているのはどちらかということに(p236)

2017年9月17日作成

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: シンギュラリティ・AI・3Dプリンタ
感想投稿日 : 2017年7月30日
読了日 : 2017年9月17日
本棚登録日 : 2017年7月23日

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